[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
やがて穏やかな寝息を立て始めたリーヴェを抱え直し、セアンはため息をつく。
「一体こいつは人を何だと思ってるんだか……」
自分を暖房扱いした女の頬にかかる髪を指先でよけ、耳にかけてやる。
するとみじろぎするので、リーヴェの体を抱え直した。
掌に伝わる柔らかさに、セアンはため息をつく。
トールと組ませなくて良かったと。
彼は何のしがらみもない人間だ。こんな状況になった時に、弱った相手を突き放すことなんてできないだろうし、そのせいで口づけひとつ耐えることすら、苦行になってしまうだろう。
一時の感情に流される可能性を、同性だからこそセアンは疑い、トールと組ませないようにしたのだ。
セアンとて女性に興味が無いわけではない。確実に後腐れのないようにしていただけで。
それ以外の人間は、素っ気なさや、セアンの作った壁に戸惑い、皆自分から離れていってくれた。
けれどリーヴェは、何を知っても意に介した様子がない。
セアンの能力に関しても、毎朝起きたら外へ向かって一言叫ばずにいられないというような、ちょっと特殊な癖ぐらいに考えているに違いない。
そんな風に思っているだろうと、ものすごく確信がある。
セアンの力を無視できない人間は今まで何人もいたのに。
その度に記憶を消さねばならなかったのに。
だから逆に、心を許して頼りながらも、律儀にセアンの秘密を守ろうするリーヴェのような人間には慣れていない。
……どう接するべきなのか、この頃戸惑うことがある。
セアンは母親を思い出す。
他者に知られるのを畏れていた彼女。結局、伴侶にすら秘密を明かさなかったほどだ。
それなのに子供を得て喜び、けれど知られるのが恐くて、何度もセアンに口外しないよう言い聞かせていた。
矛盾を抱えていた人。
家族以外に、この力のことを知られたなら化け物だと思われてしまう、と。
そんな母親を見て育ったセアンは、だからこそどうしていいのかわからなくなる。家族でもないのに、セアンの特殊さを受け入れてしまったリーヴェを、どう思っていいのか……。
ふと、セアンは横を向く。
そこに、リーヴェを見守る相手がいるのを見分けられるのは、セアンだけだ。
彼らの話しかける内容に、セアンはふと笑う。
「きっと、そうだろうな。分かってはいるんだ」
返事をつぶやいて、セアンはリーヴェと額をくっつけた。
「分かってるんだ。お前がたいした奴だってことは」
きつく抱きしめすぎたのか、リーヴェが嫌そうに唸る。
けれどまだこの腕を離したくなくて、セアンは彼女の耳元で囁くように謳った。
眠れ眠れ月の子よ
星の恵みがお前を夢へと誘うだろう
普遍的な子守歌は、セアンの声と相まって、眠り薬のように染み込んでいく。
深い眠りに落ちてゆく彼女と額を触れ合わせながら、セアンは思った。
どうして、彼女だったのだろうと。
著作権は全て奏多に帰属します。ご注意下さい。
※R18作品は今のところ一切書いていません。
ご用のある方は↓(★を@に変更して)まで。
kanata.tuki★live.jp