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それから数時間後のこと。
サンナは扉をノックする音に、玄関へ向かった。
心の中で、また駆け落ちの男女が来ていたら面白いのにと思っていたが、扉を開けたそこにいたのは、サンナより二回りも大きな男だった。
彼の後ろにも人はいたが、どれもこれも男。
「何の用だい?」
サンナが問うと、一番前に立っていた筋骨隆々の男が言った。
「馬に乗った二人組の男を見かけなかったか?」
「男? そんなのは見かけなかったし、第一昨日は嵐だったからねぇ。外の様子なんて見えなかったし」
代わりに面白い二人組みがきたので、退屈はしのげた。
先ほどまでサンナは、近所の奥様方と駆け落ち二人組みについて話してきかせていたのだ。
すると、後ろにいた別な男が進み出てきた。
背は高いものの、威圧するようなほどではない。中肉中背の、彼は地面をじっと見回し、顔を上げた。
サンナは心が躍った。
ずいぶん顔がいい男だった。茶金の髪も上品にまとめられていて、瞳も湖のように美しい碧だ。
今朝出て行った青年は冷たい感じの美形だったが、こちらは人を柔らかく惹き付けるような、色気を感じる。
「他には誰か来なかったかな? 馬が走って行ったような足跡があるようだけど」
とにかく彼らは「二人組」を探しているようだ。
であれば、この色男はもしかしてあの駆け落ち二人組みを追ってきた、娘の本当の婚約者だろうか。
サンナの脳内に、薔薇色の世界が広がる。
ここは若い二人のために、黙っておいてやるべきだろうか。
でも、三角関係の果てがどうなるのか想像するのも、なかなか楽しい。見つかって、引き裂かれた二人という筋書きもサンナの心を沸き立たせた。
実に面白そうだ。
けれど恋路を邪魔するのも無粋だ。
そういうわけで、サンナは嘘をつくことにした。
「いいやぁ? 嵐がおさまったんで、うちの旦那と息子が隣町へ出かけたのさ。馬を使ったから、その足跡じゃないかい?」
うきうきと言い訳をしたサンナは、自分の頬がゆるみっぱなしだということには気付かなかった。
「明らかに嘘だな……」
「嘘くさすぎるな……」
「じゃ、なんで追求しなかったんだよラウリ」
聞かれた色男の傭兵ラウリは、
「いやなんかあの楽しそうな顔見てると追求しずらくて……。まぁ、おおよそ推測がついたから、必要もないだろうよ」
「というと?」
村の入り口で集まった五人の傭兵達は、ラウリに注目する。
「旦那が隣町へ行ったのはまず嘘だろう。すると誰かが居たのは間違いない。そして男二人連れに対して、ご婦人があんな楽しそうにするわけもないというと……男女二人連れだったと思うんだよな」
ほほ~と、他の傭兵達が納得の声を漏らす。
「目をくらますために、一人が女のふりしてたのか?」
「それなら納得いくが……」
そして中の一人が冗談交じりに言った。
「まさか女が鉄槌振り回してたとかな」
ははっと笑った男に、一斉に視線が集中する。
「……な、なんすか?」
「いや、今すごく妙なこと思い出したもんだから」
「俺も……」
傭兵達は各々、微妙そうな表情になる。
「おいラウリ。お前行ってこい」
「久々に恋敵に会えるかもしれんぞ」
言われたラウリは「まさか……」と笑いつつ、尋ねた。
「もし【そう】だったらどうすんです?」
「俺達のやり方はただ一つだろ?」
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