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 総勢八人となったリーヴェ達一行は、休憩を済ませてから出発した。
 陽が高くなり、雨が降ったせいか少し蒸し暑いので、リーヴェは外套を脱いで腰に縛りつける。
 ぐっと背中が涼しくなって、爽快だ。
 さて馬に乗ろうとしたところで、ふと横をとおりがかった傭兵の一人に言われた。
「お前……」
「何?」
「年数経って、さすがに少しは女に見えるような体型になったんだなと」
「…………」
 言われてリーヴェは自分の姿を見下ろす。
 薄手の服で腰を絞る帯をしているため、体の線がわかりやすい状態だった。
 もう一度言った相手、トゥルクを振り返る、すると彼は「うっかり言ってしまった」という表情になっていた。が。
「……えへ」
 リーヴェはふにゃっと笑み崩れた。
「そうよね、さすがに私も十七だし? いつまでも棒きれぺったんこ胸ってわけでもないし。けど筋肉のせいであれかと思ったけど、まだまだ捨てたもんじゃないわよね、うんうん。いやーよく気がつくわねトゥルクって!」
 喜びの余りトゥルクの肩をばしばし叩いた後、スキップしながら自分の馬に駆け寄っていた。

 その姿を見送りながら、トゥルクは呆然としていた。
「なぁ、女って、脳みそにも筋肉まわりすぎるとああなるのか?」
 近くに居たヴァイノに尋ねると、彼はうなずいた。
「かもしれねぇ」

   ***

 上機嫌なリーヴェが混ざった一行は、街道を南へ進んだ。
 なるべく急いで。
 それには理由がある。
 いくつかある街道と村道等の合流点。そこへ到着した一行は、目的の集団を見つけた。
「間に合った!」
 リーヴェとセアンが馬の腹を蹴る。
 速度を上げた二人に続き、デルトを先頭に傭兵達も馬を駆けさせた。
 目の前に見えるのは、追う者と追われる者の攻防だ。
 追われている二人は、トールとディックだ。
「ちょっと待ったぁぁぁっ!」
 リーヴェの声に、ディックが振り回していた槍を止める。
 トールが目をすがめながら近くにいた傭兵を、馬上からたたき落とす。
 そして今だ騎乗していた三人の傭兵は、
「いえぇーい俺達捕虜だぜー!」
「ひゃっはーひげ面オヤジの下にいるより楽だぜ!」
「仲間を討つなよな!」
 乱入してきたデルト達に驚き、足並みを乱しながら後ずさった。そのままデルト達に囲まれる。
 傍にたどりついたリーヴェは、完全に馬を止めているトールとディックに告げた。
「お待たせ!」
「お待たせってなんだこりゃ?」
 トールの疑問も当然のことだった。
 傭兵に追われ続けて疲弊していたのだろう。あちこちよれよれだ。
「傭兵を捕虜にした」
「捕虜!?」
 セアンに聞き返したトールは、それからようやくセアンの様子に気づく。
「リーヴェの格好見てりゃ、何か理由があって扮装してるんだろうとは思ったが……お前もなんか、けったいな格好してるな」
 セアンはうなずき、淡々と返した。
「騎士二人を追って来ていると思って、扮装した」
「ああ、でもあんまり意味なかったよね。すぐに顔見知りの犯行だってわかったし」
 わざわざ服まで変えたのになぁと、リーヴェはため息をつく。
「よぉ、とにかく状況を説明してくれよ」
 困惑した表情のままだったディックに請われ、リーヴェはひととおり説明した。

 まず、敵である傭兵が顔見知りだったこと。
「お前ほんとに規格外だよな、女官として」
 ディックにつっこまれたが、無視して続ける。

 傭兵達もできればこの仕事を断りたかったらしいこと。
 シャーセ達がなにやらわけの解らない方法をつかっているらしい、ということも忘れずに伝える。これで暗示の力の件を説明しなくても、警戒してくれるだろう。

 最後に、利害が一致したものの、建前というものがあるので、決闘の末相手を捕虜としたこと。
「まさかお前がやったわけじゃないよな……?」
 トールに疑われ、そのつもりだったがセアンに役をとられたと告げた。するとトールはぷっと吹き出す。
 なんでだ。

「じゃあ追いかけっこは終了なんだな?」
 トールにうなずいてみせると、彼は剣を収めて伸びをした。
「あー、ほんっと疲れたわ。引き離そうとしても、追い返そうとしても上手くいかないわ、カーテン相手に殴りかかってるみたいでな」
「これだけ俺達相手に粘る奴もめずらしかったな」
 いつの間にか側にいた、傭兵の一人が話に混ざってくる。
 モンスだ。胴回りがイノシシのようにぼてっとしているのは、数年経っても変わっていなかったので、すぐ見分けがついた。
「おたくらみたいに手強いのは滅多にいないぜ」
 トールがそう返し、モンスと二人で笑い合っている。
 これも早めに追いつけて、大惨事になっていなかったおかげだろう。多少怪我はしているようだが、トール達も傭兵達も致命傷になった人間はいない。
 
「じゃ、早々にアレントへ向かいましょうか」
 リーヴェの声に、男達は粛々と次の行動へ移った。

 

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