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Celsus
オリジナル小説を掲載しています。
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 暑い、と感じた。
 リーヴェは暑さと息苦しさに喘ぐ。
 それでいて離れがたいほどにその熱が優しくて。
 まるで、子供の頃に母親がずっと抱きしめて眠ってくれた時のようで、守られているというこの感覚を、無くしたくなかった。
 だからすがりつくように腕を伸ばす。すると抱きしめ返してくれる。
 リーヴェはほっとしながら思う。
 どうしてこんなに自分は甘えているんだろう。
 弱っているからだと、どこかから答えが返ってきた。
 なぜ弱っているのかと考えたところで、不意に自分が風邪をひいたことや、雨の中を馬で走ったこと、民家に泊めてもらったことを思い出し――。

 瞼を開いた。
 天井と梁が視界に飛び込んでくる。部屋の中は明るくて、木目まではっきりと見えた。
 窓はカーテンが開けられて、陽の光が入ってきている。雨は上がったようだ。
 それからゆっくりと、リーヴェは自分の状況を確認する。
 寒気はもうない。暖かい布団の中から出た後も寒く感じるかどうかはわからないが。だるさもなくなった気がする。
 暑かったせいか、少し体が汗ばんだようだけれど、それもわずかだ。
 そして横にいる人をそっと振り向く。
 閉じた瞳を彩るのは、金の睫。うっすらと日に焼けた頬にも、まとめているはずの淡い金色の髪が乱れ掛かっている。
 そうだ私、セアンと一緒に寝て……。
 と、そこでリーヴェは自分の表現にツッコミを入れる。
 いや、寝てって表現は違う。添い寝? でも添い寝もなんだか異様に恥ずかしいんですが。いい年の男女がやるようなもんじゃないと思うし、だけどそれ以外に言いようがないし。
 妙なことをぐるぐる考え始めていたら、肩を掴んでいたセアンの手が動く。そしてリーヴェの頭がセアンの胸に押しつけられた。
 驚いた瞬間に、肺一杯に吸い込んでしまったのは、たぶん彼の匂い。 
 明らかに自分のものではない、女性のとも違う匂いに、リーヴェは頭がくらりとする。
 わ、わたし病気だ。いや、きっと病気だからこんな妙な感じになるんだとリーヴェは自分に言い訳する。
 心細い上、きっと故郷のお母さんともあんまり会ってないから、寂しくてこんな気分になってるだけに違いない。 
「うるさい」
 すると寝言みたいな呟きとともに、頭を二度かるく叩かれる。
 それでふっと自分まで眠くなりかけ、リーヴェは気づく。
 ――もしかして私、あやされてる?
 そう思うと、とたんにリーヴェはふっと気持ちが楽になる。セアンはお母さん代わりに看病してくれて、それが居心地いいだけなんだ。
 そーかそーかと納得したところで、リーヴェは今が何時なのかが気になり始める。
 早くアグレル公の元へたどり着かなければならない。
 あの雨風で、昨日は敵味方双方とも足止めをくらっているはずだ。今日はすぐに出発して、早くアグレル公を助けなければならない。
 傭兵達の動きからして、相手は一手も二手も先にいる。既にアグレル公が襲撃を受けている可能性は高いのだ。
「アグレル公だけじゃない……。セアンもだ」
 リーヴェがアグレル公を王宮へ連れて来れなければ、カールとの賭けには負けたことになる。そうなれば、カールに全て読み取られるのを覚悟しなければならない。
 カールは基本的に、セアンよりは力が弱い。
 だからセアンに接していたおかげで能力への対処に慣れているリーヴェの心を、他の人のように読むことができないだけかもしれないのだ。時間をかけたなら、リーヴェの心の中を暴くこともできるだろう。
 他の人々を人質にとられた状態では、それを拒否できない。上手く読み取られないように、セアンのことを考えないようにすることが、できるかどうかも自信がない。
 そうなれば秘密を守るには、一つしかなくなる。
「死ぬぐらいしか……」
 打てる手がない。
 でもそれは正直恐い。まだ人生の半分も生きてない。でも、優しい王妃やアマリエ達、騎士隊の仲間達に自分のせいで迷惑はかけられない。
 思わず苦渋のつぶやきをもらしたその時、頭の後ろにあったセアンの手が、頬に添えられていた。
「どういうことだ?」
 息を飲む。
 視線を動かせば、既に起きていたらしいセアンと目が合った。
 リーヴェは激しく動揺した。背筋が凍るような感覚に襲われ、水色の瞳から目をそらせない。
「アグレル公と、なんで俺の名前がでてくる?」
「ずっと……聞いてたの?」
 まさかずっと起きてたのに、狸寝入りしていたのか。
「お前の声で起きた」
 しれっと言われる。
「思えばお前の行動はおかしかった。城を出発してすぐに着替えていたのも、すぐに襲撃が来ることを予期していたような行動だ。お前は出発直前に何かしらの情報を得て、それに備えたんだろう? それはアグレル公だけではなく、俺にも関わることじゃないのか?」
 尋ねられるが、リーヴェの方も答えるわけにはいかない。
 けれど説明できない事がより疑惑を深めるのにも気づかず、リーヴェはうつむいて言葉少なに言う事を拒否してしまう。
「気のせいよ」
「強制的に聞き取ってもいいのか?」
 セアンはカールとは違う。心の中で思い浮かべる事どころか、記憶までのぞける。そんなことをされたらまず間違いなくばれる。
 だからセアンへの信頼を盾にした。
「セアンは勝手に人の心を覗かないって知ってるもの」
 生死がかかっているとハッキリ分かる場合を除いて、律儀なセアンがのぞき見などするわけもない。
 けれどセアンもそれは織り込み済みのようだ。
「なら、それ以外の方法で吐かせるが、いいのか?」
「や、やれるもんならやってみなさいよ」
 一体どうする気なのか。怯みながらも、リーヴェは意地になって言う。
「すぐに音を上げると思うがな」
 セアンが起き上がった。
 そして思わず逃げようとしたリーヴェをつかまえ。
 ――脇腹をくすぐった。
「ぷはははははははは!」
 普段ならコルセットがあるため、それほどくすぐったくはなかっただろう。しかし今のリーヴェは寝間着代わりのワンピースしか着ていない。
 だからよけいにくすぐったくて、リーヴェは思わず暴れる。
 セアンの手をふりほどこうとするが、その手を両手ともまとめて手首を掴まれて、抵抗のしようもない。
 足をばたつかせるのが精一杯だ。
「やっ、ちょっとやめっ、お願いだから! ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「なら早く言え。ついでに人のことを蹴るな」
「いやっ……! うひひひひ」
「強情な奴だな。まだ足りないのか」
 くすぐったくて息が絶え絶えになったリーヴェは、もう笑う気力もなかった。
「お願い……もう、だめ……うぷぷぷ」
「ならとっとと言え」
「わかった。言うから! お願いセアン許して……くけけけ」
 そこでようやくくすぐる手がひっこんだ。
 荒く息継ぎしていたリーヴェは、ふと気配を感じて横を向いた。
 そして凍り付く。
 扉を薄く開けて、サンナ達母子が部屋の中を覗いていた。母子はリーヴェと目が合うと、にやっと笑って静かに扉を閉めてしまう。
 次にリーヴェは、自分とセアンの状態について再確認する。
 基本的には、セアンがリーヴェをくすぐっていただけだ。けれど場所が悪い。寝台の上で、セアンがリーヴェを取り押さえている上、リーヴェを組み敷いているようにも見える。しかも毛布を被ったまま。
 あの母子が何を勘違いしたのか手に取るように理解できた。
「うわ……」
 リーヴェは顔を覆って、深いため息をついたのだった。
 

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