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 翌日、途中ですれ違った商人にアグレル公らしき人を見かけたと聞き、リーヴェ達は進行速度を上げた。
 かといって、全力で駆けさせ続けるわけにもいかない。
 馬を潰してしまっては元も子もないのだ。
 それに、見かけたアグレル公らしき一行は、どうやら半日ほど進んだ宿場町にいたらしい。
 一本道である以上、先方が道を進んでいたならばどこかで会えるはずだ。
 しかも商人は早朝早くに出てきたと言っていた。
 他の傭兵らしき姿も見ていないという情報に、リーヴェ達は無事に合流できるだろうと考えたのだ。
 が、道半ばまで進んでも、誰とも行き交わない。
「その宿場町で休んでるとか?」
 リーヴェの推測に、トールが言う。
「誰か深手を負って、まだ宿に逗留してるとかな。守りに入るんだったら、町にいた方がやりやすいだろ」
 普通に考えたらそうだろう。
 だがリーヴェはぞっとした。

 もし、宿の人間などが操られて、寝ていた所を襲われたりしていたら?

 相手はセアンに劣るとしても人外魔境だ。どんな方法で攻撃されるかわかったものではない。
 焦ったリーヴェだったが、セアンに小突かれる。
「公爵領でのことを思い出せ」
 小さく囁かれた言葉に、ややしばらく首をかしげたリーヴェだったが、そのうちにはっと思いつく。
 そうだ。ニナだって毒薬の力を借りていた。
 今までも襲撃されただろうに、アグレル公がこの近くまで来れたのなら、セアン並みのとんでもない人が敵にいるのではないだろう。でなければ間違いなくアグレル公は命を落としている。
 何か薬品等の力を借りてる人間である可能性が高い。
 毒を含ませるには、それなりの状況や場所が必要だ。そして長い時間効果が続くとは思えない。
「敵は、人を近くの町で調達してるのかな?」
「もしそういう敵ならばな。その可能性が高いだろう。普通の傭兵が相手ならば、アグレル公が無事な確率が上がる」
 常識の範囲内の人間、であれば対処をしようという気にもなる。
 しかし精神を操られた人間には、戸惑ってしまうものだ。
「焦ってもろくなことにはならん。落ち着け」
「うん……」
 うなずいたリーヴェだったが、
「おい、止まれ!」
 すぐに荒げた声を出したのは、セアンだった。
 しかし原因はすぐにわかる。彼が指さした土が剥き出しになっている道は、人馬が争ったように足跡が残っていたのだ。
 トールやアルヴィド達も表情をひきしめる。
「血臭がする。念のために誰かをここに残して、後の人間で追うべきだ」
 ふん、と嗅いでみたが血の臭いなどリーヴェにはわからなかった。ふと見ればセアンはちらりと明後日の方向を見ているので、納得する。
 匂いなどしないけれど、そういうことにしているだけだ。
 他の人間も同様に匂いはわからなかったようだが、足跡は確実に争った痕がわかる。
 すばやく傭兵から二人が残ると決め、他の人間が急ぎ林の中へと馬を進めた。
 セアンは足跡を探しながら追うにしては、早すぎるペースで林の中を進んだ。時々倒木に行く手を阻まれて遠回りはするが、目指す方向が分かっているかのように突き進み続ける。
 あきらかに異様だし、トールも変な顔をしている。
 リーヴェは焦った。
 誤魔化す余裕もないほど、この先にいる人は切迫した状況にいるのだ。
 そして林が途切れたそこは、広い石の川原だった。
 すぐ前方には三十人以上はいるだろう、革鎧などを思い思いに着た集団。
 彼らに囲まれた少人数の――。
「アグレル公!」
 トールの声で、中心で守られた臙脂色の服を着た男性が振り返る。亜麻色の髪は、レオノーラ妃によく似ている。
 おそらく彼が、アグレル公だ。
 石だらけの道を進みにくそうにする馬から、トールが飛び降りて駆け出す。敵も徒歩の者ばかりなので、問題ないと考えたのだろう。
 傭兵達もそれに続き、リーヴェも飛び降りた。
 剣を抜いて駆け寄っていくこちらも、十人以上いるのだ。けれど、アグレル公と彼を守る数人に集っている集団は見向きもしない。
(やっぱり……!)
 操られているのだ。あの、人を従わせる声によって。
 アルヴィド達は、これ幸いと背後から襲いかかる。誰一人こちらを気にしないことをいぶかしく思いながらも、アグレル公に集中していると考えたのだろう。
 が、唐突に集団の半分がリーヴェ達を振り返る。
 しかし反応が遅い。
 アルヴィド達の剣が、最も外周にいた数人を捕らえた……が。
「げっ……なんだこいつらは!」
「おいおいおいマジかよ!?」
 腕に骨が見えるほどの切り傷ができても、背中から血を流しながらも、痛みなど感じないようにこちらへ剣を振り下ろしてくる。
 表情もなく、草を刈り取るかのように振り回す剣を受け止めながら、トールが呻いていた。
「死の兵士かよ……」

 それは遙か昔、建国王の傍にいた賢者が使役したという、死をも恐れぬ兵士達のこと。
 劣勢をくつがえすため、敵兵を操って自らの兵とし、敵兵同士で討ちあわせたという、おとぎ話に出てくる代物だった。
 

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