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 その日、夜まで馬を走らせた一行は、途中の宿場町に逗留した。
 夜中近くにかけ込みでやってきた集団に、小さな宿の主人は目を丸くしていたが、前払い分に迷惑料だと少し上乗せすると、快く空き部屋へ案内してくれる。
 部屋数が足りず、毛布などを追加で運び込んだりといった作業が終わると、各々食事を口にして部屋に
入る。
 リーヴェも当然相部屋を申し出たが、さすがにそれは皆に拒否された。
「いいか? 一応お前、女なんだからな?」
 傭兵達にまで懇々と諭されては、さすがにリーヴェも否とは言えなかった。
 後ろめたいながらも一人部屋へ引っ込もうとしたリーヴェを止めたのは、団長アルヴィドだった。
「久々だからな。まぁ一杯つき合えよ」
 馬を駆けさせ続けたのに疲れた様子も見せず、一人晩酌をしていた団長に、リーヴェもうなずく。
「ほんとに、久しぶりです。……といっても、前は私、お酒なんて飲ませてもらえませんでしたけど」
「13・4の子供を酔い潰すわけにいかんだろう? しかも一応、お前は貴族令嬢だ」
「あの時だって、別にそんな事気にもしてなかったくせに」
 思わずリーヴェは笑う。
 貴族だということを気にしていたら、剣の鍛錬をつけてくれた時に、痣ができるほど打ち据えたりしなかっただろう。
「で、どういう経緯でお前が王妃の女官なんてのになったんだ?」
 問われて、リーヴェは今までの経緯を語る。
 カーリナのために決闘を続けていたら、結婚が無理そうになってしまったこと。なので侯爵の薦めで王妃の女官になったのだ。
「けど、私に期待されてたのって、王妃様の周りに華やぎを添えるためじゃなかったのよね」
「女官に偽装した専属騎士みたいなもんだな」
「否定できない……」
 そう言われると、なんだか女官と言い続けるのも申し訳ないような気になってきた。
「まぁでも、居心地も悪くないし、多少危険だけどやりがいはあるし。このまま仕事に生きるのもいいかなって最近思えてきて」
 そうか、とアルヴィドはうなずく。
「王妃の評判や、噂は聞いてる。だが万が一……それこそ王妃の地位を追われた場合には、どうするんだ? お前の人生設計が狂いそうだが」
「そんなこと、考えもしなかった」
 だってレオノーラ妃は、国と国の約束事の上で結婚したのだ。
 不遇ではあっても、ステフェンスという国が侵略されるか、王妃自身が儚くならない限りは、その契約は続くはずなのだから。
「いろいろな方法があるだろ」
「暗殺……とか?」
 それを警戒して、近衛の警備も厳しいし、リーヴェみたいのを女官に置いているわけなのだが。
「まぁな」
 アルヴィドも否定しない。
「レオノーラ様がいなくなったら、なんて……」
 考えたくないことだし、無いようにはしたい。セアンが居る限りは……と思うが、そんな理由はアルヴィドには話せない。
「きっとないわよ、そんなこと。だってほら、そのために警備だって万全を期してるんだし」
 言葉を濁すリーヴェに、アルヴィドが笑う。
「まぁ、可能性の一つだ。万が一食いつめたらうちを頼ってこい」
「女傭兵として採用するの?」
 食い扶持にありつけない女性が、時折そうして傭兵になるというのも、ないわけではないが。
 するとアルヴィドがリーヴェの頭を撫でた。
「後方待機組でもいいさ。まぁ、そんな状況じゃなくとも、手が必要な時はうちを頼ってこい。一度面倒みた娘みたいな奴を、見捨てないってことだけ覚えとけ」
「うん……ありがとう」
 優しさからの申し出に、リーヴェは心が温かくなる。
 少しだけ、故郷の父のことを思い出した。
 
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