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「うわっ」
剣をかわす。
敵が剣をもう一度振り上げようとする隙に、リーヴェは足をきりつけた。
本来なら痛がってうずくまり、戦えなくなる攻撃だ。
なのに敵は痛みをかんじていないかのように、地に立ち続け、再度攻撃してくる。
「どうしたら……」
「ぼけっとすんな!」
横からの声に思わず一歩引いた瞬間、左手から来ていた敵の剣を受け止める人影がリーヴェの前に立った。
「トール!」
敵の剣を力ずくで押し返したトールは、そのまま相手の肩を一突きにする。
その光景を見た瞬間、リーヴェは気づいた。
本当はこの人達は敵じゃない。操られてるだけだ。
「ま、まってトール!」
「待てるか馬鹿! お前死にたいのかよ!」
怒られて、リーヴェは言葉に詰まる。
そして他方から来た剣を避けて下がり、足払いを掛けて転倒させる。
けれどそれだけではだめだった。すぐに立ち上がろうとする。
――殺すしかないのか。
唇をかみしめ、剣を構えなおしたリーヴェの前に、金の髪の青年が立つ。
彼は立ち上がりかけていた男を蹴飛ばし、昏倒させた上でリーヴェに小袋を投げてよこした。
「お前、これを使え」
セアンに渡されたのは、小さな金入れ袋に入った砂だ。
「へ?」
反射的に受け止めながらもとまどうリーヴェに、セアンが囁く。
「今からこれを、眠り薬だと思え。そして必ず一人ずつ近くで顔にぶつけろ――同時に俺が眠らせる」
「了解っ」
自分の意志ではなく、立ち向かってくる人々を救えるならと、リーヴェは請け負う。
すぐに、自分に向かってきた敵の懐に入り込み、砂をぶつける。
砂が口に入っても無視して剣を振りかぶった敵が、次の瞬間、糸が切れたようにその場に倒れた。
「よし、一人」
次いで、セアンが剣を受け止めていた相手に砂を掛け、その間にセアンが眠らせる。
更にトールの背後からきりつけようとしていた相手、ディックが槍を振り回して吹っ飛ばした相手と、次々にリーヴェは砂を当てていく。
「お、なんだそれ?」
すぐにリーヴェの行動に気づいた傭兵達が、顔を向けてくる。
「ちょっと特製の眠り薬! 吸い込んだら眠っちゃうから、どいて!」
リーヴェのねつ造した言い訳を信じたのか、ラウリとデルトが敵から離れた。その隙をついて二人まとめて眠らせることに成功する。
勢いづいて次の標的を狙おうとしたリーヴェは、不意に耳に届いた音に足を止めた。
木がきしむような不快な音。
はっと見回せば、剣をとって戦う者の中に不自然な男を見つける。
アグレル公を仕留めようとするでもなく、現れたリーヴェ達に対処するでもなく、一人離れた安全な場所にいる。一人だけ朽ち葉色のクロークのフードを被った男だ。
あれだ! とリーヴェは気づいた。
「ディック、槍!」
「お前に貸すのか?」
呼び声に、戦いながらすぐに応じてくれるディック。
「あいつを早く狙って!」
「なんかわからんが、せいっ!」
ディックが槍を投げる瞬間、不自然な行動をしていた男は、直前でディックの槍が弧を描いて迫っていることに気づいた。
逃げようとしたが、その瞬間にめまいがしたように地面にひざをつく。
そんな男を、ディックの槍は貫いた。
次に響き渡ったのは、鋭い鳥の鳴き声にも似た音だった。
それは今、リーヴェにしか聞こえない音だ。
「みんな鼻と口ふさいで!」
リーヴェは急いで砂をばらまきながら走り回る。
叫んだ瞬間にアルヴィド達やトール達は風上へと走った。
そして砂埃が舞う中、笛の音にうちのめされたように敵となって戦っていた者達がたおれていく。
やがて剣戟の鳴り響いていた川岸は、元の静けさをとりもどした。
「なんだ……今のは?」
離れた場所からゆっくりと戻って来ながら、アルヴィドが倒れた敵を見回す。
「うん……眠り薬、かな?」
あはっと笑ってリーヴェは誤魔化す。
ちなみにセアンも、ディック達のように離れる演技をしたので、皆にはリーヴェが一人で何かしたように見えただろう。
よって問い詰められるのもリーヴェだけだ。
「あんな効き目がいいなら、何なのか教えてもらいたいもんだな」
アルヴィドに言われたが、
「えっとー、企業秘密!」
とても苦しい言い訳だったが、リーヴェはそれで押し通し続けたのだった。
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※R18作品は今のところ一切書いていません。
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