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 アレントの町は、腰までの高さの壁にかこまれた町だ。
 この近辺は昔から狼の被害が多い地域だったようで、最初は家畜のために壁を作ったのだ。が、後に内乱が起きた時に半分破壊され、中途半端な高さのまま残っている。
 飛び越すこともできる高さではあるが、狼や野犬などの侵入をためらわせる役に立っているので、放置しているらしい。
 だから壁近くは、ヒツジの群がわさわさといた。
 その家畜たちを横目に進むと、町並みの中へ入る。

「団長は宿を借り切ってるんだ」
 ラウリが説明した。
 その頬は、まだ青黒い痕が残っている。けれど腫れは昨日一日でだいぶ引いたようだ。
 綺麗な顔にごめんねと謝りながら、冷やすのを手伝ったかいがあったというものだ。
 その様子を見たトールに「お前の男だったのか」と疑われてみたり、ディックにありえねぇとか失礼な事まで言われたりはしたが、二人にはちゃんと訂正しておいた。
「わたしたちは、カーリナ侯爵令嬢を争ったライバル同士なの!」と。
 好敵手に拍手をおくるごとく、世話をみたっておかしくはないではないか。
 しかしディックには変な方向に解釈された。
「おまえ、まさかレズ?」
「…………」
 もちろんディックには制裁を加えておいた。

 そんな楽しい思い出話はともかく、広い町ではないので、すぐに目的の宿に着く。
 宿の人が出てきたので馬を預けた後、ラウリに先導され、リーヴェやセアン達は宿の二階へ向かった。
 中の一室にラウリが入っていく。
「団長、新しい雇い主を捜してきましたよ」
「は? 雇い主だ?」
 けげんそうに言う、低い声。
 なつかしいなぁとしみじみしながら入ると、以前より茶の頭髪に白いものが混じるようになった、団長の姿があった。
 アルヴィドは、傭兵団の団長にしては細身で、宿の主人だと言われても違和感がないような体格の男だ。本人も面倒見が良すぎて団長になったんだと言っていたが、決闘云々といった団の規律から考えて、そんなことはありえない。
 一度剣の鍛錬をしてもらったリーヴェも、その強さは身に染みてわかっている。
 いつもおっとりとしていて動じないそのアルヴィドが、目を丸くして立ち上がった。
「リーヴェ……か?」
「お久しぶりです、アルヴィドさん」
 リーヴェは挨拶する。
「実はアルヴィドさんたちが追いかけ回してた中に、私がいまして……」
「決闘で俺達リーヴェの捕虜になったんですよ」
 ラウリが続きを引き受けてくれる。
「なので俺達、リーヴェの言う事を訊かなくちゃいけなくなったんです。申し訳ないんですけど団長、先方に契約履行できない旨を手紙で送ってくれますかね?」
「顔の痣は、それが理由か」
 アルヴィドはラウリの顔を見て、ふっと笑う。
「まさかリーヴェがやったんじゃないだろ? さすがにラウリには勝てないだろうからな」
「そ、その通りです……」
 ラウリよりまだ弱いとはっきり言われて、リーヴェはごもっともとうなずく。
「代理で俺がやった」
 そう進み出たのはセアンだ。
「近衛騎士副隊長をしているセアンだ。先約の相手との事情は聞いている。こちらは同じだけの金額を支払うとラウリ殿には約束した。仕事を受けてもらえるか?」
 アルヴィドはじっとセアンを見つめた。
 なぜか、長いこと。
 セアンもじっとアルヴィドから目をそらさない。
 どうしてだろうと首をかしげていると、リーヴェに視線が向けられる。
 急ににかっと笑ったアルヴィドは、楽しげに笑った。
「何そんな不安そうな顔してるんだよ、リーヴェ」
「え、だってアルヴィドさんがうんともすんとも言わないから。もしかして代理決闘じゃだめだったのかなと思って」
「ふん? そういえばお前なら自分からやるって言い出しそうだが、なんでこのお人に譲ったんだ? ラウリならわざと負けるだろうってわかってただろうに」
「えと。セアンが、女に負けるのは嫌だろってラウリに言って……」
 ラウリも、女装姿の人間相手に、決闘する気にはならないと言ったのだ。
 理由を改めて反芻してみて、ふとリーヴェは猛烈に恥ずかしくなった。
 なんだろう。
 あの時は、決闘なら自分より強いセアンがやるのが普通だろうと思ったし、ラウリの男としての矜持としても、女のリーヴェとやるよりは彼にとって良いと思っていたのだ。
 今まで気付かなかったけれど、すごく『庇ってもらった』ような気がする。
 自然にうつむくと、アルヴィドが「くっくく」と笑って言った。
「いじめて悪かったよ。元仲間だったリーヴェが、仲良くやってんなら信用がおけるだろう。ちょうど胸くそ悪かったところだ。ラウリの話に乗って、お前等に鞍替えしてやる」
「ほんと!? やった!」
 ばんざーいと喜ぶと、ラウリにまで笑われた。
「そうだ。お前に返す物があったんだが」
 アルヴィドの言葉にリーヴェは首をかしげた。
 が、書類や地図やら剣やらを無造作に積み上げていた机の下から、アルヴィドがとりだした物を見て、リーヴェは固まる。
 数日前、傭兵にぶんなげた、鉄槌だ。
「な、なんでそれが?」
 どうしてあるのかと問えば、
「あの時お前と戦った一人がな、拾って持ってきていたんだ。鉄槌と戦って敗れたのは初めてだから、記念にってな」
「そんなの捨てていけばいいのにっ!?」
「なんかえらく驚いて感心してたぞ。馬車の中から対応するには良い武器だってな。当人はせっかくだから語り継ぐとか言ってたが」
「うわやめてー!」

   ***

 思いがけない鉄槌との再会に、脱力しきったリーヴェだったが、契約成立ということでそのまま仕事の話がはじまった。
「お前らが迎えに行こうとしているアグレル公爵。当人は現在、ここから三日の距離があるルーキンスの町近くまで来てるはずだ」
 トールがほっと息をついた。
「では、まだご存命か」
「安心するのは早い。お前ら同様に足止めされながらの行進で、だいぶ護衛も数を減らしてるようだ」
 ルーキンスの町にいるというのも、進行速度からの予想だとアルヴィドは付け加える。
「だから既に落ちた後かもしれん。それだけは覚悟しておけ」
 希望打ち砕く発言に、リーヴェはうなずく。
 一瞬で千里を駆けられるわけではないのだ。間に合わない覚悟も必要だろう。
 でもその時はどうしよう。
 ちらりとセアンの顔を横目で伺う。すると、セアンがこちらに視線をくれた。
 わかっている、というように。
「だが、全ての状況を把握しているわけでもない。実のところ、あちらの攻略は別な奴らがやってるんだ」
「まさか、別な傭兵団が雇われてる?」
 それには首を横に振られた。
「傭兵団というわけではないようだ。私兵のようで、それほど数が多いわけではないらしい、というのが俺たちの調べた結果だ。おかげでアグレル公爵の方も、ある意味敵が少なく済んでるみたいだが」
 よっぽど「きちんと殺した」証拠がほしいらしい。というのがアルヴィドの意見だった。
 しかし、これでアグレル公が無事である可能性が高まった。
 リーヴェ達は休憩もそこそこに、ここまで使っていた馬を換え、団長と彼が選んだ部下とともに出発した。

 

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