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 王妃はつつましく、けれど堪えきれないように肩をふるわせて笑った。
 けれど周囲のエヴァやタニヤ、シグリ。さらにトールは遠慮しかった。
「そうしたらあの方、リーヴェを男だと思ってらっしゃるの?」
「あれでしょ? 秘密の訓練に行くとき、近衛騎士の服を着てたから……」
「まぁリーヴェは殿方みたいに勇ましいし」
 女官三人はそう言って、大きな声で笑う。
「おまっ、ホントに不運な奴だな!」
 トールは更に遠慮がなかった。
「不愉快な人を見かけて気分が塞ぎそうだったけれど、あなたの御陰で、滑稽な道化を見かけた位の軽い気分になれたわ」
 王妃はそう言って笑顔を浮べるが、明らかに笑いすぎで目尻に涙まで浮かんでいる。
 リーヴェはもう、どうにでもしてくれという心境で天井を仰ぎたくなった。
 しかし誰を恨みようもない。全ては自分が訓練に参加したいと言い出したことが、めぐりめぐってこんな事態を招いたのだ。
 がっくりとうなだれていると、アーステンが慰めるように肩をたたいてくれる。が、見れば彼も笑いを堪えすぎてか、少々顔が赤かった。
「でも困ったわね、私あの女性に探してあげると約束してしまったわ」
 目の端を指でそっと拭いながら、王妃が言う。
「そんな者はいなかったとは……」
 タニヤの言葉に、アマリエが首を横に振る。
「それでしらを切り通せるかしら。後でシャーセに妃殿下の近衛は、制服を誰にでも貸してしまうと言いふらされてしまいかねないわよ?」
 近衛騎士は王宮内でかなりの自由が認められている。帯剣できるのもその一つだ。それを悪用される可能性があるからこそ、制服の貸与は認められていない。この件が王妃にとって政敵であるシャーセの耳に入れば、近衛騎士達の管理責任を問われるほど話を大きくされるかもしれない。そうならないためには……。
「やっぱり、この姿であの女性にお断りを申し上げるしかないでしょうか」
 はぁとリーヴェがため息をつくと、アマリエが同意した。
「それしかないでしょうね」
 アマリエが王妃に視線を向けると、王妃は小さくうなずいてみせた。彼女に任せるということだ。
「まず、彼女のことを調べます。その上でリーヴェと引き合わせる場を設定して……後は近衛の服を着ていた事について、口止めもしなくては」
 一応、その場はそこまでで話が終わった。
 園遊会の時間が近づいていたからだ。
 会場へ移動したものの、リーヴェは王妃の姿を目で追いつつ、まだため息をついていた。
 自分のモテない人生で、熱烈に好いてくれたのが同性というのはどういうことだろう。
 その不条理を思うと、通りすがりの貴族の女性となごやかに話しているトールやディックに、靴を脱いで投げつけたくなる。
 一応彼らも警備のためにいる。客の間に交ざって、有事にはその場で対応する方針なのだ。それはわかるが、むかむかするものはするのだ。
 その衝動と戦っていると、不意に横から葡萄酒の入ったグラスが差し出された。
「……セアン?」
 近衛騎士副隊長になったセアンだ。
 独り言が多く、幽霊が見えると噂の変人だが、彼に助けられて以来、リーヴェは友達づきあいをしている。
 いつもは人のことを気にしないセアンが、めずらしくも気遣ってくれた。
 そう思って驚きつつグラスを受け取ると、セアンはいつもの無表情に微かな笑みをみせた。
「お前、とうとう男に間違われたらしいな」
 リーヴェはグラスを落としそうになった。
「粗忽な奴だな」
「ちょっ、セアンが変なこと言うからじゃない! ていうかもう知ってるってどういうことよ!」
「トールがわざわざ聞かせに来た」
 リーヴェの心に殺意が湧いた。
 あいつか。
 あいつが言いふらして回っているのか!
 怒りのままにグラスの中身を一気に煽り、リーヴェは固く決意する。
「後で覚えてらっしゃいトール……」
「殺人計画を立てるなら、俺に聞かれない場所でやれよ。巻き込まれたくないからな」
「はいはいわかっておりますとも副長殿。で? わざわざそんな事を私に言いに来たの? 随分暇そうね」
「暇だからというわけではない。ただ、その状況を確認しておこうと思った」
「何で?」
 尋ねると、セアンは意外なことを口にした。
「お前、変だと思わなかったのか?」
「だから何を?」
「確かにお前は剣を使える。だが、骨格や背の高さや顔立ちからして、遠目ならまだしも至近で見つめ合っても男に見えるほどゴツくはないだろう」
「…………」
 リーヴェは少々悩んだ。
 これは是と言っていいのだろうか。
 素直に女らしく見えると受け取った後で、どん底に突き落とされたらなんだか立ち直れない気がする。
「ま、まぁそうかも」
 だから曖昧な相づちをうったのだが、セアンはそれを気にせず続けた。
「それなのに、相手の女はお前の事を男だと思ったわけだ。その女とお前の身長差はどうだった?」
「や、確かそんな変らなかったような……」
 セルマは踵の高い靴を履いてた気がする。その分もあって、ほぼ同じくらいだった。それを思いだし、リーヴェもようやく不自然さに気付く。
「え? あれっ? どうして彼女、私のこと男だと思ったんだろ」
 格好も近衛騎士のもので、ささやかな胸なんて厚い生地の下ではほとんどあるかないかわからない状態だったから、それは仕方ないとして。
「年下だと思った……とか?」
「声はどうだ?」
 更に追求されて、リーヴェは自分の口を手で塞ぐ。
 そうだ。リーヴェの声はとうてい他の騎士達みたいに低くはない。高くはないけれど、聞き間違えようもなく女性のものだとわかるはずだ。
「しゃべったのに……なんで男かどうか疑問に思わなかったんだろう」
 服装で勘違いしても、素直に男だと思ったあげくに恋する眼差しで見るにはちょっと無理がありそうな気がする。
「まさか、同性愛者だったとか?」
「アホか」
 セアンに一刀両断された。
「それなら本人も近衛の制服を着ていた女性を捜してくれと言うだろう。その方が早くみつけられるはずだ」
「え、じゃあ……なんで?」
 首を傾げるリーヴェに、セアンは言った。
「やはり不審すぎるな」



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