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 一巡時後、リーヴェはよろよろとしながら自分の部屋へ戻ろうとしていた。
「おい、大丈夫か?」
 トールが気遣ってくれるが、リーヴェはやさぐれていたので、
「……変態」
 と一言返したのみで、彼を振り返りはしなかった。
 結局、同じような手で何度もトールに負けることになったのだ。あんな変態な手で負けるのは悔しかったが、トールがそうした理由はリーヴェにもわかっている。
 手加減、しているのだ。
 リーヴェは相手が重傷を負わない程度にではあるが、足を蹴飛ばしたりしているけれど、トール達は足癖が悪いとこちらをけなしても、決して同じ手を使ったりしない。
 リーヴェは女官でもあるからだ。
 騎士の役目も多少期待されているものの、青あざだらけになったりしては、王妃の傍にいるのに相応しくない。だからうっかり怪我をさせないよう、気を遣ってくれているのだ。
 確かに、腕を出すようなドレスを着たあげく、腕がアザだらけになっていたら目もあてられまい。でも足ぐらいなら、人目にさらすわけもないのだから、多少怪我をしたってかまわないとリーヴェは思っていたのだが。
 だが、それを見ていたはずのセアンでさえ、トール達の行動について「生ぬるい」などとは言わなかった。スヴェンを相手にしている集団には「手加減するな」と注意していたのに。
 背後からトールのため息が聞こえてくる。
「あのな……」
 トールがリーヴェの肩に手を置く。
 リーヴェよりも大きな、剣を握りやすそうな手。リーヴェが簡単に押し負けてしまう力を持っている手だ。
 リーヴェは正直悔しいと思った。自分もこういった手があれば、と。
「お前がいじけてる理由はわかるし、一緒にやるなら俺達もそれくらいの気持ちでいてくれた方がいいんだけどさ」
 一応、トールはリーヴェの悔しさを分かってくれてはいるらしい。
「お前はさ、実戦のための訓練に来てるんだろ?」
「まぁ……そうですが」
 公爵家のあれこれで、多少の覚悟や経験はしたものの、それでも足りないからと訓練を望んだのだ。
「それなら訓練積むのもいいが、女であることで落ち込むなよ」
「それこそ実戦では男女差うんぬん言えないじゃないですか」
「いやまぁ」
 トールは困り果てた様子で眉の端を下げる。
「とりあえずな、劣等感を抱くのはやめとけ」
「そうはいっても、腕力差があるのはかなりのハンデです。実際それで貴方に押し負けましたし」
 やっぱり腕力を鍛えるところから、なんとかしなくてはならないだろうか。
 そう呟いたリーヴェに、そうじゃないとトールは言った。
「どうせなら女であることを利用する方法を考えた方がいい」
 変なことを言う、とリーヴェは思った。
 振り返ると、トールがもう一方の肩にも手をかけて自分の方へリーヴェを向き直らせた。
 先程までの意地悪そうな笑みがなりを潜め、トールは予想以上に真剣な顔でリーヴェを見ている。
 いいか、とトールは話を続けた。
「腕力を俺やグンナーに勝てるほど鍛えるのは無理だろ。体の構造的に。ていうかお前、これ以上腕力付けたら……見た目やばくて女官やってられないだろ」
 確かに。筋肉むきむきの女官というのはあまり宜しくなさそうだ。トールの意見は一理ある。
「そんな無駄な努力するより、女であることを利用して油断させればいい」
「利用って……」
 トールが真剣に教えてくれているのはわかる。
 実際、リーヴェが多少腕力を鍛えたところで、トールやグンナーに勝てるほどにはなれないだろう。
 しかし女性らしさを求められたところで、リーヴェにはどうしていいかわからない。普段ならまだしも、戦闘中にどうやってそんなことを心がければいいのやら。
「例えば、どんな感じにすればいいんでしょう」
 わからないから尋ねると、トールはあっけにとられたような表情になった。
「や、素直に聞いてくれるのはいいんだがな、やっぱりそれは自分で考えた方がいいような気がするぞ……?」
「そうは言っても、よくわからないんですが……。トールはいろいろ知ってるんですよね?」
 知らなかったら、そんなことを教えてくれるわけもない。ディックやスヴェンみたいに、負けたリーヴェを指さしてゲラゲラ笑うだけでおしまいにしていただろう。
 しかし再度お願いすると、なぜかトールは顔を横に逸らす。眉間に皺まで寄っている。
「いや……それはあまり男に聞かない方がいいだろ」
「でもアマリエ様に聞いても、多分お困りになられると思うんですが」
「いや、まだアマリエ殿に聞いた方がいい。そうするべきだ。っていうか、他の男にはこんなこと聞くなよ? いいな?」
 妙に念を押して、トールは急に立ち去った。
「そんな変な事きいちゃったかな……」
 

 トールの行動はわけがわからないが、そのことについて考えるより、まずは着替えを優先することにした。
 女官であるリーヴェが騎士と一緒に訓練している事については、王妃の許可が出ている。しかしあまりおおっぴらにはしない方がいいと、アマリエが忠告してくれていた。
 どんなに役に立っても、貴族の女が剣を振り回すのは奇異なことなのだから。
 なるべくなら王妃が変な目で見られないようにするよう、配慮するべきだった。
 そのようなわけで、王妃の居住棟内でもできるだけこっそり、人目につかないように移動していたリーヴェは、耳にかすかな悲鳴が聞こえた気がして足を止める。
 振り返ったリーヴェの目に飛び込んできたのは、深紅のドレスの裾をからげて、泣きながら走ってくる一人の女性だ。
 緩く巻いた黒髪も艶やかで、深紅のドレスの豪奢さに負けない綺麗な人だった。
 すぐに彼女は背後から追ってきた二人の男に捕まりそうになる。
 彼らは貴族の誰かの従者だろうか。きちんとした上着を身につけているが、楽しげに女性を追い回している姿は、町中にたむろする悪漢と変わりない。
 彼女ののばした手が、リーヴェに向けられる。切れ長の美しい目と、視線が合う。
「助けて!」
 その言葉に、リーヴェは気付けば彼女に向かって駆けだしていた。
 女性の腕を掴んで自分の背後に庇いながら、間近に迫った男の腹を警告もなく蹴りつける。
「このやろ……!」
 呻き倒れる相方を見て、残りの一人が殴りかかってきた。
 野郎じゃないんだけど、と思いながらリーヴェは男の拳をかわし、男の腹を殴りつける。
 二人目も体をくの字におるようにして、その場に膝をついた。
 素手の喧嘩は苦手だったが、上手く攻撃が急所に入ったようだ。
 しかし手の指が痛い。相手の服のボタンがもろに当たったなぁと、リーヴェは内心嘆息する。それでも有事の際以外は、王宮内で剣を抜くわけにはいかないので仕方ない。
「こっちへ!」
 呆然とする女性の手を引いて、リーヴェはその場を離れた。
 一番安全そうな場所……と思った彼女は、さきほどまでいた訓練場の近くで足を止める。
 この辺りは王妃の騎士が多いので、何かあっても応援を呼ぶこともできる。彼らもうかつに近づけまい。
 建物から出て近くの木陰へやってきたところで、リーヴェは足を止めた。
 女性は逃げ続けたせいで息を切らしていたけれど、大輪の薔薇のような笑顔を見せてくれる。
「有り難うございます、騎士様……」
 走ったせいか、頬も上気して薄赤い。
「いえ、女性が困っていれば助けるのが騎士の勤めですから」
 どうやら服装からリーヴェのことを騎士だと勘違いしているようだが、リーヴェは誤解をそのままにしておくことにした。
 これきり会わないかもしれないし、自分のことを端から端まで説明するのも大変だからだ。
 それにしても綺麗な人だと思いつつ、リーヴェは彼女から手を離そうとした。が、手首を掴んでいたはずのリーヴェの手が、彼女のもう一方の手にがっちりと掴まれてしまっている。
 ――なんで?
「えと、そちらから庭園を回っていけば、先程の者達と会わずに城の外へ出られると思います」
 少々冷たいようだが、この格好のまま王妃の住む棟から離れるのは遠慮したい。男装を見せびらかしてもなんら利点はないのだ。
 それとなく手をはずさせようとすると、彼女はなぜか残念そうな表情で手の力を緩めてくれる。
「もし……騎士様よろしければ、後ほど御礼をしたいのでお名前を」
 名前はもっとマズイ。
 慌てたリーヴェは、偽名を言っておくことすら思いつかず、
「あ、いや、ちょっと用事がありますので!」
 と言って、その場を走り去ってしまった。



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