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オリジナル小説を掲載しています。
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 なぜリーヴェが騎士達に混じって訓練をすることになったのか。
 実はリーヴェ自身の希望だった。
 発端はもちろん、先日の公爵家での騒動だ。
 公爵や公子を守るため、さんざ剣などを振り回していたリーヴェだったが、同時に、自分が培ってきた剣の腕や体力が、訓練を少し怠っただけでも鈍り初めていたことに気付いたのだ。
 情けなくも疲労でへたりこんだ事は、後から何度も思い返して歯ぎしりしてしまうほど悔しかったのだ。
 ちなみに、公子のラルスも一緒にへたりこんだ件については、リーヴェの中では重要ではない。
 公子として宮廷を生きる彼とリーヴェでは、役割が違うのだ。彼がもっと剣を扱えない人だったとしても、リーヴェにとっては比較する対象外だっただろう。
 そしてリーヴェの悔しさを更に煽ったものがあった。
 公爵家から王宮へ帰着した翌々日に届いた、侯爵令嬢カーリナからの手紙だった。

※※※※※※※※※※※

 親愛なるリーヴェ・マリア男爵令嬢 殿

 お元気? というか、お元気ではないらしいとお父様から伺ったので、お手紙を出しました。
 ラルス公子のところで、公爵の暗殺を企んだ犯人に殺されかけたと聞きました。
 お父様がそう仰った瞬間に「ウソ!」と叫んで、とても叱られてしまいました。
 だって「あの」リーヴェがいかに男性が相手とはいえ、遅れをとるとは思いませんでしたから。
 運命の輪を、悪魔が蹴っ飛ばして巡りを悪くしたとしか思えません。
 だって私はリーヴェのファンなのですもの。
 贔屓の騎士が敗北したことを知りたくない気持ちと同じなのです。
 この度は不覚をとったかもしれませんけれど、次こそはこの一ファンのためにも、武勇伝を轟かせて下さいますよう。
 あら、女の子宛のお手紙ではないみたいな文章ね。
 けどファンレターだからこれでいいのかしら。
 本当に、ご回復を祈念しております。

 騎士リーヴェを信奉する者 カーリナ

※※※※※※※※※※※※

 この手紙を読んだ瞬間、リーヴェの脳裏に三年前の思い出が脳裏に鮮明に甦った。
 カーリナが侯爵の逗留させている傭兵団の一人に執心で、なんとか気持ちを引き離したいと、話し相手を捜していたこと。
 けれど他の令嬢では怖がって、カーリナの話し相手になりたがらなかったこと。
 そこへ母が、侯爵家の援助を取り付けるために娘のリーヴェを売り込んだのが、全ての始まりだった。
 この一件の真相は、カーリナが婚約者に結婚の約束を破棄させたくて、傭兵団の青年に恋人の振りをしてもらっていただけだった。
 が、カーリナが偽っていたことを内外に知られるわけにもいかず、結局恋人のふりをしていた傭兵とリーヴェが剣を交え、引き分けて、カーリナがリーヴェのファンに鞍替えしたように見せかけてことを収めたのだ。
 あのころは、傭兵達に相手に剣の修練をつけてもらったりと、技術を身につけるのに必死にだったし、かなりの訓練時間のせいでやたら体力はついた。
 その後はさすがに剣の試合や訓練を積むわけにもいかなかったが、試合をする分には毎日多少練習するだけで、問題になるようなことはなかった。
 が、実戦はさすがに別だった。
 公爵家へ赴く前の戦いでも、リーヴェは自分がかなり無駄な動きをしていると感じたのだ。
 騎士隊の訓練に加わった所で、本気の斬り合いをするわけではないのだが、乱戦の練習はできるし、体力作りには役立つ。
 そこで王宮に帰着後、王妃レオノーラから褒美をという話しになった時に、近衛騎士の訓練への参加を願い出たのだ。

 久しぶりに対面したその時、レオノーラはアマリエ以外の侍女や女官を人払いしてから言った。
「改めて、あなたに感謝します、リーヴェ」
「もったいないお言葉でございます」
 籐編のゆったりと大きな背もたれが湾曲する椅子に座ったレオノーラに、リーヴェはスカートの裾をさばいて軽く床に膝をついた姿勢のまま、お辞儀をした。
「いろいろと貴方自身も危険な目にあったと聞きました。体はもう大丈夫なの?」
「はい、今はどこも問題ありません」
 実のところを言うと、公爵家での一件の直後、リーヴェは王宮に戻る前に一度熱を出してしまったのだ。
 寝込んでいる時に一度様子を見に来たセアンによると、毒で弱った所に眠り薬を使われたりと体が痛めつけられ、緊張がほどけた瞬間に、それらのツケがどっと出た、のだろうということらしい。
 セアンは「だから貴族ってのはなんでもかんでも薬を使いたがって困る」と文句を言いつつ、なにかと面倒を見てくれた。
 帰りもかなり気遣ってくれて、まるで父親のような気の使い方だった。
 でも回復したのだ。
 全て話すわけにもいかないので、リーヴェは黙っておくことにした。
「ラルス公子も、春節祭には登城なさるそうです。改めてお礼をしたいと、お手紙を頂きました」
 そこでレオノーラは声をはずませる。
「今回の働きは私にとっても予想以上でした。妹とも思っているカーリナ姫より伺った以上の勇敢さに、感銘を受けました。ぜひ、私の側に永くいてくださいリーヴェ。ついては、望みがあれば叶えてあげたいのだけれど、何かあるかしら?」
「あ……」
 レオノーラの申し出にリーヴェが思いついたのは、帯剣の許可をもらうことだった。
 が、それはすぐに思いとどまる。
 女官が一人帯剣したならば、今度は側室のシャーセ側でも帯剣する女官が増えて、やっかいな事態になりかねないと思ったからだ。
 だから代わりに、こっそりと服まであつらえてもらって男装し、近衛騎士の訓練に参加させてもらうことにしたのだ。

 ちなみに、同じように褒美をと申し出られたセアンは、特に何も無いとこたえた後で、近衛騎士隊の副隊長に昇進したのだった。

 

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