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オリジナル小説を掲載しています。
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「やぁリーヴェ」
「こんにちは」
 土が剥き出しの王宮東側の練兵場で、縦横正方形に整列する騎士達の集団。
 その後ろにこっそりと並んだリーヴェは、楽しげな表情で声を掛けてきた短い灰色の髪のスヴェンに笑みを返した。
「お疲れ様です、スヴェンさん」
「体は平気かい?」
 斜め右前にいた赤毛のアーステンも振り返る。少し年長の彼は、気遣いも忘れない。
「ありがとうございます。公爵閣下の家で大乱闘してたせいか、久しぶりでも筋肉痛にはなりませんでした」
 女官に任官され、ついでに兼業騎士まがいの役目を負ったリーヴェが、仕える王妃のため、ヴァルデマー公爵の領地へ赴いたのは、ほんの三週間前のことだ。
 そこで少々立ち回りを演じたりしていたのが、運動になったのだろう。
 昨日騎士達の訓練に参加した後も、それほど筋肉痛に悩まされるようなことにはならなかったのだ。
 そんなリーヴェは、彼らと同じ濃紺の制服を着ていた。
 急遽あつらえたものだったが、採寸はしっかり行ったので体にぴったりだ。
 髪は、首元で簡単に結んでいる。
 返事を聞いて笑ったのはアーステンの隣にいたトールだ。
 濡れたような黒髪が、密かに綺麗だとリーヴェは思っている。伸ばして鬘にして売ったら、さぞかし高値で取引されるだろう。
 整ってはいるけれど鋭さを感じさせる顔で、トールはにやりと笑った。
「俺も見たかったな、その大乱闘」
「見せ物じゃないですよ」
 公爵家で大乱闘しなければならなかったのは、公子のラルスを守るためだったのだ。
「今は見せ物みたいなもんだろ?」
 彼が顎で示したのは、練兵場が見える草地にちらほらと集まっている、淑女達の姿だ。
 危険だからと、近くには寄らないため、こちらからは相手の顔なども判別できないほど離れている。
 が、彼女達はなんとか遠目でも目当ての騎士を見つけようと、オペラグラスまで持ち出していた。硝子が時折陽の光に煌めくので、すぐにわかる。
 昨日と同じその光景は、別に女官であるリーヴェがこっそり混じっているからという理由ではない。いつだって練兵場の周りには女性達が見物に来ているのだ。
 貴族令嬢の、最近流行の娯楽として。
「あれは私の観客じゃないですよ。主にティセリウスさんじゃないんですか?」
 名前の響きも美麗なら、彼の容姿もそれに相応しい美麗さだ。
 少し巻き気味の金の髪を首元で束ねた件の騎士は、列の前の方で微動だにせず、隊長を待っている。すらりとした背丈といい、常識的な感性を持っているところといい、ティセリウスはまさに王子様的な人だ。
 いろんなことに疎いリーヴェでも、彼が王妃の近衛騎士の中で、一番人気だということはわかっている。
「いや、お前も目立ってるだろ」
 トールはなおも譲らない。
「どこがですか?」
「一人だけ段違いにちっさいんだ。埋もれるより、妙に目立つだろ。まだ子供の年の騎士でも入ったのかって」
 リーヴェはその発言に少しだけ傷つく。
 そうか。女の子だとわかるからではないのか……。
「仕方ないじゃないですか。背丈ばっかりはもう伸びませんよ」
「胸も成長しなさそうだがな」
 厚い生地越しでは起伏がわかりにくいリーヴェの胸を見て言う。
 リーヴェは無言でトールの足を蹴った。
「いって……!」
 トールは言い返そうとしたのだろうが、急に表情がこわばる。
 と同時に、リーヴェの肩に手が乗せられた。
「元気が有り余ってそうだな。リーヴェ・マリア・イェンセン」
 その声に、背筋が凍りつく。
「昨日は初日で手加減しておいたが、今日からの訓練は覚悟しておけ」
「……ひえっ」
 怖い宣言をした声の主は、いつの間にかこちらを振り返っていた近衛騎士全員に、号令した。
「本日隊長は所用で席を外す。代わりに副長の私が監督する。手始めに……」
 ようやく彼を振り返ったリーヴェは、無表情なのに目だけは異常に楽しげなセアンの顔を見上げた。
「三組に分かれて、一対多で打ち合う練習でもしてもらおうか。一の組はスヴェンが」
 スヴェンが首をすくめる。
「二の組はクラウス」
 どこかでうめき声が上がった。
「そして三の組はリーヴェ。この三人が十人全員打ちのめすまで、止めるなよ。始めろ!」
 騎士達が広い練兵場に三組に分かれて移動していく。
 リーヴェは練習用の刃を潰した剣をひっさげて、のろのろと右端の組についていった。
 仕方ない。相手の中にセアンが混じっていないだけマシだと思いながら。

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