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 追いかけられているリーヴェ達は、山を迂回する道で、街道の先を目指していた。
 行程としては一日遅れになってしまうが、仕方がない。
 急いで街道をつっきろうとすれば、大量の敵と対することになり、結果的に時間がかかってしまう。
 王妃やセアンのために急ぎたかったが、ここは我慢するしかないのだ。
 前日の雨で泥の跳ねる山道を駆け抜けた二人は、昼頃には街道の合流点へたどりつく。
 しかしそこには、敵の影も形もなかった。
 動くものは、風に葉をそよがせる木々のみ。
「なんで?」
 セアンはそれに答えず、辺りの気配をさぐる。
 ややしばらくして、首を横に振った。
「この辺りにはいないようだ」
 不思議に思いながらも、リーヴェ達は先へ進むことにした。
 一度馬を休ませ、それから再度走り続ける。
 川沿いにやってきたのは、日暮れ前だった。
 馬に水を飲ませようと降りたリーヴェは、足下に突き立った矢にはっと辺りを見回す。
 傭兵か、この辺りに住む狩人が間違えて射たのか。
 腰の剣に手をかけながら相手の居場所を探すリーヴェの耳に、のんびりした声が届いた。
「おい、なんか俺、幻が見えるんだが……」
 もう忍ぶ必要がないと思ったのか、相手はざくざくと草を踏み分ける音を立てる。
「お前もか? 俺もなんだ。疲れてるのかな」
 左手の川原を、じゃりじゃりと踏みしめる音もする。
「敵は全員男って言ってなかったか?」
「とうとう性別までかわっちまったんじゃないのか?」
「じゃ、あれは女装かよ」
 好き勝手な事を言われていると気付いたリーヴェは、むっと眉間に皺が寄る。
 聞けば聞くほど、覚えのある声ばかりだ。
 リーヴェの側に騎乗したまま寄ったセアンに、手を挙げて「ちょっと待って」と合図をする。
「俺としては、好敵手とさんざ謳われた相手が同性になったなら喜ばしいんだが……」
 やがて姿を現した六人を見て、リーヴェは自分の記憶が正しいと確信した。
「あんたたち。眠ってる間に口を縫い付けられないよう気をつけることね!」
 あきらかに知り合いの集団だった。
 しかも六人は傭兵。
 リーヴェの言葉には、昔酒を酌み交わした仲だという彼らへの気安さと、そんな仲間が自分の敵に回った悔しさが滲んだ。
 リーヴェの言葉に先頭に立っていた優男、ラウリが微笑む。
「君から忍んで来てくれるのかい? 期待して待ってるよ」
「すこし向うに崖があったわよ。そこから落ちればいいんだわ、このタラシ!」
「ずいぶんなご挨拶だねリーヴェ」
「タラシにはこれでももったいないわ、ごきげんようラウリ」
 彼らは傭兵団『標炎の槍』。
 かつてリーヴェが侯爵家でカーリナ姫の話し相手をしていたころ、カーリナの婚約を破棄するために一芝居打つのに協力した傭兵団だった。
 
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