Celsus
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戦闘が始まった。
リーヴェにも剣戟の音が聞こえてくる。
馬車から先行した所で起こった戦闘場所が、どんどんと近づいてきた。
騎手のいない馬の横を通り過ぎる。
そして馬車は、ディックが戦っている現場へ追いついた。
騎馬の上で、ディックは槍を振り回している。剣よりも広い攻撃範囲を持つ槍の、ディックは名手だ。
強い風に呷られて動きにくそうだが、二人の黒っぽい外套を羽織った敵を相手に立ち回り、石突の一撃を首にたたき込んで、一人を馬上から落としているのが見える。
しかし敵も手練れのようだ。
仲間がやられても動揺などしない。冷静に動き、槍を引き寄せるため隙のできたディックに向かっていく。その上落ちた敵もすぐに体勢をたてなおし、剣で斬りかかっていた。
ディックは馬上の敵の攻撃をいなし、地上の敵を槍の端で突き倒す。
今度槍の扱いを教えてもらいたいぐらいに、鋭い槍さばきだ。
ディックは放っておいても問題ないだろう。
それよりも、とリーヴェは馬車の前側にある小さな扉を開ける。
そこには必死の形相で馬を走らせている、御者がいた。彼も王宮の兵士なのだが、戦闘まっただ中を走るのはやはり恐怖もひとしおだろう。
手綱を操らねばならず、馬は戦闘の気配に操りにくくなる。それにかまけていると、自分の身が守りにくい。
だからリーヴェは彼に言った。
「危なくなったら、馬車を止めて逃げていいですから! あとは騎士達とかがいますから、私のことは気にしないで!」
「え? あ、はいいぃっ!」
振り向いた御者は、許可を得てほっとした表情に変わる。
御者役の兵士は、リーヴェが戦闘要員だとは知らせていないのだ。だから守らねばならないと気負っていたのだろう。
それでも馬車で敵を振り切るのが、当初の彼の役目だ。怯え始めた馬を叱咤激励し、速度を上げさせる。
小窓からは、トールを囲んでいた敵が三人、突っ込んできた馬車とぶつかるのを避けたのが見える。
リーヴェは急いで馬車の横の窓へと場所を移動した。
すると案の定、トールを放置して馬車と併走しはじめた相手が一人いた。
確認だけしてリーヴェが窓から離れて間もなく、併走していた敵が扉を壊そうと、剣をつきたててくる。
木の横板は、三度の攻撃に耐えかねて、敵の剣の貫通を許してしまう。
けれどリーヴェは慌てなかった。
「ふっ、こんなこともあろうかと、積んでおいてよかったわ」
座席下に忍ばせていた、秘密兵器を取り出す。
馬車に乗ってる間、ドレス姿でも対処できるよう、御者役の兵士に頼んで積んでおいてもらったものだ。
そして貫通して顔を出していた敵の剣をめがけて、鉄槌を振り下ろした。
げいん、と重たい音をたてて敵の剣が曲がる。
「なっ!?」
敵も攻撃しかえされたのとは違う衝撃に驚いた声を上げる。そして剣を引き抜こうとしてできず、がたがたとしばらくもがいていた。
そのうちに、トールに背後から頭を殴られて、落馬して視界から消える。
よし一人片付いた。そう思ったら、今度は反対側の扉ががしがしと斬りつけられている。
今度の相手は窓に剣を突き刺してきた。
扉を壊すよりは硝子の方が遥かに楽だ。そこから扉を開けようとしたのだろう。
リーヴェはその剣が引っ込む前に、鉄槌を下ろす。
「よっこいせ」
敵の剣が曲がり、かぎ爪のように窓枠にひっかかった。
敵も何かされたとはわかったのだろう。けれどそれ以上に怪力の持ち主だったのか、窓枠を引きちぎるようにして剣を引き抜いた。
「なんだこれは!」
さすがに自分の剣の様子に驚いたらしい。扉付きの剣を慌てて投げ捨てている。
それを逃さず、扉を開けたリーヴェは敵に向かって鉄槌を投げつけた。
「どうして鉄槌!?」
驚いた声を上げながら、敵はとっさに剣で鉄槌をはねのけようとした。
が、本人が思ったよりも曲がった分長さが足りなくなっていた剣は、鉄槌を完全にとらえることができない。
そして敵は槌に押されるようにして、落馬した。
「よっし知力の勝利!」
勢いづいたリーヴェだったが、がくんと馬車の速度が落ちる。
前方から悲鳴が聞こえ、リーヴェは腰の剣を抜いてそちらを伺った。目が闇に慣れたとはいえ、全てがはっきり見えるわけではない。
ただ、御者台の方の明かりは灯したままだ。風に大きく揺れる灯りの中、止まりかけた馬車の前方から、人影が逃げるように走っていくのが判別できる。たぶん御者だろう。
御者を追いかける騎馬。これは敵。
それを阻止する騎乗した白銀の髪の人影が見える。セアンだ。
リーヴェは馬車から降りることにした。
馬車も壊れてしまったし、そろそろ自分も打って出ようと思ったのだ。
が、降りた直後に背後から攻撃される。それをかわし、近くに迫っていた敵へ向き直った。
「なんだこいつ? 女官が乗ってんじゃねぇのかよ!」
誰かに落馬させられたのか、リーヴェを襲った敵も地上に足をつけていた。
驚いている今のうちにと、リーヴェは猛攻をかける。
「げっ!」
敵はリーヴェの付きをかわしたが、膝に蹴りを入れられて転倒する。かなりがっちりと蹴りつけたので、相当痛いはずだ。正直リーヴェもそんな攻撃を受けたくはない。
その場でころげまわる男を置いて、リーヴェは馬車の前へ走る。
今リーヴェ達がするべきは、敵の殲滅ではない。
この場の敵から逃れ、なるべく急いで先を目指すことだ。
前方では、セアンが敵を馬上から突き落としていた。
御者台の明かりが届く場所にいたので、その様子がリーヴェにもつぶさに見えた。
リーヴェは落馬した男が立ち上がれなさそうなことを確認し……
「うえっ!?」
思わず驚愕の声を上げる。
黒っぽい外套の下にサーコートを着ているのはいい。冬の厳しいステフェンスは、冬の戦闘で皮膚がくっついたり凍傷になる事が多いため、鉄鎧があまり一般的ではない。代わりに皮鎧や、厚手のサーコートや上着を重ねることが多いのだ。
国同士の戦闘以外では、それが標準的である。
ただ、この敵はそのサーコートに問題があった。
敵はサーコートを着ていながら、前面に国や貴族家の紋章がない。代わりに、右上に縫い付けられた鉄制の剣と盾の印章がある。
そんな印しを身につける者はごく限られている。
「傭兵……」
ステフェンスで傭兵が団体を構成して活動するには、国家の承認が必要だ。それは反乱に手を貸すのを未然に防ぐため、その行動を把握するためでもある。そうして認証された傭兵団以外を扱ったことが発覚すれば、その者が貴族ではなくとも、反逆罪に問われることがあるのだ。
一応傭兵側が依頼主について黙秘することは可能だ。なので、万が一疑いをかけられないよう、貴族間で争う場合でも、皆認証された証を身につけた傭兵を雇い、口止め料を上乗せする。
一方でシャーセ側の子飼いの私兵を相手にするとばかり思っていたリーヴェは、敵の冷静さと強さに納得がいった。戦っていた相手は、常に争いと戦いを求めて彷徨っている者達だ。
過去、剣の指南を受けたことがあるからこそ、リーヴェにはわかる。
激しくやっかいだ。
シャーセの私兵や暗示がかかった味方よりも面倒に違いない。
もしシャーセ側が複数の傭兵団と契約していたなら、敵の数は計り知れないことになるだろう。
「せ、セアン! すっごくまずい! 相手にまだ援軍がいるかも! 早くここから逃げよう!」
慌てて駆け寄ったリーヴェに、セアンが手を差し出す。
彼の意図を察して、リーヴェはセアンの馬に、飛び乗った。
「トール、ディック!」
セアンが声を掛けると、二人も時機を察してか、敵を放置して馬を走らせはじめた。
ディックは逃げ惑っていた御者の兵士を連れている。
そして四人は、出来る限りの速さでその場から逃れる。
敵もしばらくは追撃してきたが、やがて降り出した初夏とは思えない冷たい雨の中、撤収していったようだった。
リーヴェにも剣戟の音が聞こえてくる。
馬車から先行した所で起こった戦闘場所が、どんどんと近づいてきた。
騎手のいない馬の横を通り過ぎる。
そして馬車は、ディックが戦っている現場へ追いついた。
騎馬の上で、ディックは槍を振り回している。剣よりも広い攻撃範囲を持つ槍の、ディックは名手だ。
強い風に呷られて動きにくそうだが、二人の黒っぽい外套を羽織った敵を相手に立ち回り、石突の一撃を首にたたき込んで、一人を馬上から落としているのが見える。
しかし敵も手練れのようだ。
仲間がやられても動揺などしない。冷静に動き、槍を引き寄せるため隙のできたディックに向かっていく。その上落ちた敵もすぐに体勢をたてなおし、剣で斬りかかっていた。
ディックは馬上の敵の攻撃をいなし、地上の敵を槍の端で突き倒す。
今度槍の扱いを教えてもらいたいぐらいに、鋭い槍さばきだ。
ディックは放っておいても問題ないだろう。
それよりも、とリーヴェは馬車の前側にある小さな扉を開ける。
そこには必死の形相で馬を走らせている、御者がいた。彼も王宮の兵士なのだが、戦闘まっただ中を走るのはやはり恐怖もひとしおだろう。
手綱を操らねばならず、馬は戦闘の気配に操りにくくなる。それにかまけていると、自分の身が守りにくい。
だからリーヴェは彼に言った。
「危なくなったら、馬車を止めて逃げていいですから! あとは騎士達とかがいますから、私のことは気にしないで!」
「え? あ、はいいぃっ!」
振り向いた御者は、許可を得てほっとした表情に変わる。
御者役の兵士は、リーヴェが戦闘要員だとは知らせていないのだ。だから守らねばならないと気負っていたのだろう。
それでも馬車で敵を振り切るのが、当初の彼の役目だ。怯え始めた馬を叱咤激励し、速度を上げさせる。
小窓からは、トールを囲んでいた敵が三人、突っ込んできた馬車とぶつかるのを避けたのが見える。
リーヴェは急いで馬車の横の窓へと場所を移動した。
すると案の定、トールを放置して馬車と併走しはじめた相手が一人いた。
確認だけしてリーヴェが窓から離れて間もなく、併走していた敵が扉を壊そうと、剣をつきたててくる。
木の横板は、三度の攻撃に耐えかねて、敵の剣の貫通を許してしまう。
けれどリーヴェは慌てなかった。
「ふっ、こんなこともあろうかと、積んでおいてよかったわ」
座席下に忍ばせていた、秘密兵器を取り出す。
馬車に乗ってる間、ドレス姿でも対処できるよう、御者役の兵士に頼んで積んでおいてもらったものだ。
そして貫通して顔を出していた敵の剣をめがけて、鉄槌を振り下ろした。
げいん、と重たい音をたてて敵の剣が曲がる。
「なっ!?」
敵も攻撃しかえされたのとは違う衝撃に驚いた声を上げる。そして剣を引き抜こうとしてできず、がたがたとしばらくもがいていた。
そのうちに、トールに背後から頭を殴られて、落馬して視界から消える。
よし一人片付いた。そう思ったら、今度は反対側の扉ががしがしと斬りつけられている。
今度の相手は窓に剣を突き刺してきた。
扉を壊すよりは硝子の方が遥かに楽だ。そこから扉を開けようとしたのだろう。
リーヴェはその剣が引っ込む前に、鉄槌を下ろす。
「よっこいせ」
敵の剣が曲がり、かぎ爪のように窓枠にひっかかった。
敵も何かされたとはわかったのだろう。けれどそれ以上に怪力の持ち主だったのか、窓枠を引きちぎるようにして剣を引き抜いた。
「なんだこれは!」
さすがに自分の剣の様子に驚いたらしい。扉付きの剣を慌てて投げ捨てている。
それを逃さず、扉を開けたリーヴェは敵に向かって鉄槌を投げつけた。
「どうして鉄槌!?」
驚いた声を上げながら、敵はとっさに剣で鉄槌をはねのけようとした。
が、本人が思ったよりも曲がった分長さが足りなくなっていた剣は、鉄槌を完全にとらえることができない。
そして敵は槌に押されるようにして、落馬した。
「よっし知力の勝利!」
勢いづいたリーヴェだったが、がくんと馬車の速度が落ちる。
前方から悲鳴が聞こえ、リーヴェは腰の剣を抜いてそちらを伺った。目が闇に慣れたとはいえ、全てがはっきり見えるわけではない。
ただ、御者台の方の明かりは灯したままだ。風に大きく揺れる灯りの中、止まりかけた馬車の前方から、人影が逃げるように走っていくのが判別できる。たぶん御者だろう。
御者を追いかける騎馬。これは敵。
それを阻止する騎乗した白銀の髪の人影が見える。セアンだ。
リーヴェは馬車から降りることにした。
馬車も壊れてしまったし、そろそろ自分も打って出ようと思ったのだ。
が、降りた直後に背後から攻撃される。それをかわし、近くに迫っていた敵へ向き直った。
「なんだこいつ? 女官が乗ってんじゃねぇのかよ!」
誰かに落馬させられたのか、リーヴェを襲った敵も地上に足をつけていた。
驚いている今のうちにと、リーヴェは猛攻をかける。
「げっ!」
敵はリーヴェの付きをかわしたが、膝に蹴りを入れられて転倒する。かなりがっちりと蹴りつけたので、相当痛いはずだ。正直リーヴェもそんな攻撃を受けたくはない。
その場でころげまわる男を置いて、リーヴェは馬車の前へ走る。
今リーヴェ達がするべきは、敵の殲滅ではない。
この場の敵から逃れ、なるべく急いで先を目指すことだ。
前方では、セアンが敵を馬上から突き落としていた。
御者台の明かりが届く場所にいたので、その様子がリーヴェにもつぶさに見えた。
リーヴェは落馬した男が立ち上がれなさそうなことを確認し……
「うえっ!?」
思わず驚愕の声を上げる。
黒っぽい外套の下にサーコートを着ているのはいい。冬の厳しいステフェンスは、冬の戦闘で皮膚がくっついたり凍傷になる事が多いため、鉄鎧があまり一般的ではない。代わりに皮鎧や、厚手のサーコートや上着を重ねることが多いのだ。
国同士の戦闘以外では、それが標準的である。
ただ、この敵はそのサーコートに問題があった。
敵はサーコートを着ていながら、前面に国や貴族家の紋章がない。代わりに、右上に縫い付けられた鉄制の剣と盾の印章がある。
そんな印しを身につける者はごく限られている。
「傭兵……」
ステフェンスで傭兵が団体を構成して活動するには、国家の承認が必要だ。それは反乱に手を貸すのを未然に防ぐため、その行動を把握するためでもある。そうして認証された傭兵団以外を扱ったことが発覚すれば、その者が貴族ではなくとも、反逆罪に問われることがあるのだ。
一応傭兵側が依頼主について黙秘することは可能だ。なので、万が一疑いをかけられないよう、貴族間で争う場合でも、皆認証された証を身につけた傭兵を雇い、口止め料を上乗せする。
一方でシャーセ側の子飼いの私兵を相手にするとばかり思っていたリーヴェは、敵の冷静さと強さに納得がいった。戦っていた相手は、常に争いと戦いを求めて彷徨っている者達だ。
過去、剣の指南を受けたことがあるからこそ、リーヴェにはわかる。
激しくやっかいだ。
シャーセの私兵や暗示がかかった味方よりも面倒に違いない。
もしシャーセ側が複数の傭兵団と契約していたなら、敵の数は計り知れないことになるだろう。
「せ、セアン! すっごくまずい! 相手にまだ援軍がいるかも! 早くここから逃げよう!」
慌てて駆け寄ったリーヴェに、セアンが手を差し出す。
彼の意図を察して、リーヴェはセアンの馬に、飛び乗った。
「トール、ディック!」
セアンが声を掛けると、二人も時機を察してか、敵を放置して馬を走らせはじめた。
ディックは逃げ惑っていた御者の兵士を連れている。
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著作権は全て奏多に帰属します。ご注意下さい。
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