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 トールの質問をかわしたリーヴェは、時間がせまった出発の準備に追われた。
 他の三人は普通に旅装を整えればいいが、リーヴェはそうもいかない。
 上っ面はドレスを着て優雅に。
 けれど内側にはすぐに騎乗して走れるように。
 そんなわけで、乗馬用ズボンだけ履いて上からドレスを着ることにした。
 しかし服が一枚重なると、普段よりかさばる。手伝ってくれたクリスティンが、なんとかズボンの上に重ね着をしていないと思えるよう苦闘してくれた。
「あ、これも」
 リーヴェがついでに短剣を隠し持とうとしたら、
「無理ですよ目立ちます」
 とクリスティンに却下されてしまった。
「剣だとわからないように持って、馬車に乗ってしまえばいいのではない? 夜だし、馬車に乗ってしまえば大事に抱えて肌身離さずにいればいいわけだし。どうせ下に服を着たままというこことは、馬車の中でドレスから着替えてしまうのでしょう?」
 様子を見ていたアマリエにずばり見抜かれ、リーヴェはうなずいた。
 いつ襲撃があるかわからない状況で、いつまでもドレスを着ているつもりはない。
 王宮を抜けたところで早々に着替える気満々だった。
「スカートは重ね着がわからないようひだを付けてるだけの、脱ぎ着しやすいドレスですので、着替えはお一人でも大丈夫だと思いますわ。コルセットも緩めにしておりますし」
「わがまま聞いてくれてありがとうクリスティン」
 リーヴェが礼を言うと、クリスティンは楽しそうに笑う。
「私も楽しんでおりますので。いいですわね、悪巧みって」
 帯を結び終えたクリスティンが立ち上がる。
「大丈夫、ちゃんと外出する貴族令嬢に見えますわ、リーヴェ。中に乗馬ズボンをはいているとは、誰も思わないでしょう」
 アマリエが満足そうにうなずく。
「出発するときだけとはいえ、それなりに見えないと怪しまれますからね」
 クリスティンとアマリエにうなずく。
「これで、戦闘要員を三人だけだと勘違いしてくれると、やりやすいんですけどね。騙されてくれるかな」
 リーヴェの願いを、アマリエが肯定してくれる。
「まぁ、先のアルマの件でリーヴェが近衛の真似事をしているらしいという話を、先方も知っているでしょうけれど、大丈夫。あなたの強さまでは把握しているような情報は耳にはいってきていません。護身程度に剣をたしなんでいると思ってくれているでしょう」
 油断してくれれば、その分だけリーヴェ達は戦いやすい。
 ほっとして、アマリエに礼を言う。
 出発まであと半刻と迫っていた。
 ボーアの薬の効果はあったが、まだ油断すると咳が出るリーヴェは、ケープを羽織ると布で覆った剣だけを抱いて部屋を出た。その他の荷物は、既に馬車に積み込み済みだ。
 燭台にぽつりぽつりと明かりが灯されただけの、王宮を進む。
 既にセアン達も集合しようとしているはずだ。
 自然と急ぎ足になるリーヴェだったが、エントランスに近づいた所で、彼女を止めるように、階段の下から上がってくる者がいた。
「こんな夜にひっそりと出るのか。昼間出発した方は囮で、君が真打ち?」
 燭台の明かりでは消しきれない、闇に溶けるような黒髪。カールだ。
「なぜ……」
 するとカールは楽しげに階段の下に向かって手まねきする。
 ふらふらとしながらも上がってきたのは、リーヴェの荷物を運んで貰った、若い下級女官だ。
「彼女がいろいろとしゃべってくれたよ? 快くね」
「あなたが自分でしゃべらせた、の間違いではないの? そもそも、あなたみたいな人が自分でそこまで情報収集してるとは思わなかったわ」
 話しながら、リーヴェは内心舌打ちしたい気分だった。
 さすがにあちこちの人間に、こんな頻繁に能力を使っているとは思わなかったのだ。だから今日の出発も、かぎつけられても意図までは伝わらないと思ったのに。
 けれど、とカールの隣でぼんやりした表情で立っている下級女官を見る。
 彼女には詳しい事は伝わっていないはず。どっちが真打ちかなど、カールは推測で話しているだけだろう。
 だからリーヴェは、自分は弱いと強調してみせる。
「私では足手まといになるだけですよ」
 しかしそれはカールの中では織り込み済みだったようだ。
「だから面白いんじゃないか」
 カールは笑う。
「僕は今でも君の特殊性について、調べさせてほしいと思ってるんだ。けれど君は僕の言うことなどそうそう聞いてくれそうにないからね? だから賭けをしようよ」
 柔らかい物言いでそう提案してくる。
「無事に代官をここまで連れて来られたら、君の勝ち。君のことをあきらめよう。でもそれができなかったら僕の勝ちってことで、君の心の中をいろいろ調べさせてほしいな」
「う……」
 正直、想像するだけでぞっとする。
 心の中をのぞき見られるのだ。今朝何を食べたのかも、今誰に対して悪態を心の中でついたのかも、ささやかな悩みから、プライベートなことまで全て知られてしまうのだ。
 たとえセアンの秘密を抱えていなくても、気持ちが悪くて嫌だっただろう。
「それをして……私になんの利益が?」
「僕は、君らの仲間にも暗示をかけるよう言われているんだ。それを止めておいてあげるよ。君もゆっくりと課題にとりくみたいだろうし、その間に大切な妃殿下の傍で事件が起こっちゃこまるだろう? ああ、もちろん僕との賭けについては他言無用にしてもらおう」
 柔らかな物言いながらも、明らかに脅迫してくるカール。
「僕の興味を満たしてくれるのと引き替えに、君の心がほしい」
 恋愛物語に出てきそうな熱烈な台詞が、こうまで嫌だと思ったのは初めてだった。
 けれど拒否はできない。
 セアンもリーヴェも王宮からいなくなるのだ。誰もカールの動きを抑制できる人間が居ない。そもそも気付かない。
 事情も話さず、今からセアンを誰かと交代させるのも不可能だ。
 セアンに依頼したとして、彼が大っぴらに動けば、カールもさすがに気付いてしまう。
 最も安全な方法は、この賭けを飲むことだ。
「……信用していいんでしょうね?」
 賭けの内容を違えたら、切り捨ててやるという気迫を込めてカールに念を押す。
「月神に誓って」
 カールは誓約のつもりか、リーヴェの前に膝をつき、剣を抱いていない彼女の左手を掴んで口づけた。

「面倒なことになったな……」
 リーヴェは再び、足早に馬車を止めているはずのエントランスを目指した。
 後ろについてきているのは、先ほど暗示をかけられた下級女官だ。出発直前にリーヴェが変な動きをしないよう、カールが監視のために張り付かせたのだ。
 仕方なく女官を連れてリーヴェは目的地に到着する。
 外は強い風が吹き始めていた。
 夜空には雲がかかっているのが見える。
 天頂に輝いていた月も、流れの速い雲に覆われて見え隠れしている。
 セアン達は既に騎乗していた。扉を開けた馬車の前には、見送りにきたアーステンが立っていた。
「遅い」
 セアンに言われ、リーヴェは短く返した。
「ごめん」
 それ以上の単語を口にしようとすると、うっかり話してしまいそうで恐かったのだ。
 しかし変な態度だったのだろう。
 セアンは無言でじっとリーヴェを見ている。どうせなら、そのまま心の中なり、背後にいるだろう一部始終を見た相手に聞くなりして察してほしい。
 そう思いながら、急いで馬車に乗り込む。
「気を付けて」
 扉を閉めてくれようとしたアーステンに「ありがとう」と礼を言ったついでに、リーヴェはせめてこれだけはと告げた。
「妃殿下の周りに気を付けて下さい」
 視線をあの下級女官に向けそうになるのを必死でこらえる。うっかり彼女が密通者かと監視下に置かれたら、リーヴェが他者に話したと思われてしまうのだ。
 じっとアーステンの目を見る。
 彼は小さくうなずいてくれた。
 そしてリーヴェ達は、夜の中、王宮を出発したのだった。

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