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 セアンの霊界通信は、今日も的確だった。
 ボーアに薬を貰って出たところで、下級女官がリーヴェを探しに来たのだ。
 薬を飲み込んでから王妃の元へ駆けつけると、めずらしくレオノーラ妃が怒りに震えていた。
 手を膝の上で握りしめ、肩に力を入れて眉間に皺を寄せている。綺麗な人なだけに、その怒った表情もどこか迫力を感じた。
 その様子を見た瞬間、リーヴェは自分が怒られるのかとどぎまぎしたが、
「お願いアマリエ。私自分の口で説明したら卒倒しそうなの。……あのろくでもない狸どもを根絶やしにしたい……」
 後半部の、今までにないレオノーラ妃の言葉に、自分が失態をおかしたわけではないらしいと知ってほっとする。
 その一方で、大抵のことには冷静なレオノーラ妃が、一体なぜここまで怒りをあらわにしているのかと訝しむ。
 理由はアマリエが話してくれた。
 レオノーラ妃の故国リンドグレーンは、一応ステフェンス王国に併合された形をとっている。
 現在、リンドグレーン領はレオノーラが統治権を持っているが、王宮をおいそれと離れられない彼女の代わりに、領地を統治している者がいる。それがレオノーラ妃の従兄である。
 そのレオノーラ妃の従兄はバート・アグレル公爵という。
 レオノーラ妃は彼に、リンドグレーン全体の統治を委任している。その関係で二年に一度は、ステフェンス王宮まで伺候しレオノーラ妃に報告を行う。
 そんなアグレル公爵から、もうすぐステフェンス王宮へ向かうと知らせがあったのだが。
「この時を狙ったのだろうとは思うのですが、アグレル公爵様に嫌疑がかけられたのです」
「嫌疑ですか?」
 リーヴェが鼻声で尋ねると、アマリエが重々しくうなずいた。
「隣国バルタの人間と接触し、リンドグレーンを差しだして身売りするのでは、という嫌疑です」
 大陸の東を支配するバルタ王国とは、建国以来幾度となく争い続けている。時には侵略されることもあるが、ステフェンス側やリンドグレーン側が、領土拡張目的で攻め込んだ時もある。
 そのため比較的平和な近年においても、国境線沿いの警備は厳重だ。
「どうしてバルタと?」
「大臣の……特にシャーセの父親、ヴィカンデル侯爵がやっかいな証言を掘り出してきたらしいのです。それがアグレル公爵が港湾都市で、他国の船と交渉を重ねていることでした。ヴィカンデル卿曰く『秘密裏に他国と接触する状況そのものが好ましくない。しかも統治者である王妃様に報告もないというのは、明らかにアグレル公爵の背信行為ではないのか』と」
 リーヴェは絶句しそうになって、ふと気付く。
「……では相手がバルタかどうか、ヴィカンデル卿も知らないのですか?」
「かもしれません。でもリーヴェ、そんなことは問題ではないのです」
 アマリエが柳眉をつり上げる。
 リーヴェは思わず、自分が怒られているような気になって、一歩引きそうになった。
「交渉相手が誰であってもかまわないのです。必要なのは『他国の船の者と接触』と『王妃様がそれを知らない事』です。レオノーラ様が把握していなければ、伺候途上のアグレル公を殺し、たまたま通りがかった者がバルタとの密約を匂わせる物品を見つけたことにすればいい」
「なっ……」
 でっち上げるために、殺してしまうということか。
「念を入れて、ヴィカンデル卿はバルタの人間と交渉ぐらいはしているかもしれませんね。リンドグレーンの一部をそちらへ割譲する代わりに、芝居に強力せよ、と」
 リーヴェは絶句してしまった。
 証拠がないなら作ればいいじゃない、などとは真正直なリーヴェには思いもつかなかった。
「今日その話を出したのは、布石を打つためでしょう。やっぱりアグレル公爵はバルタと通じていたのだ、と皆に信じさせるためのね。そしてレオノーラ様はアグレル公爵の動きを知らなかったため、反論しても『推測や擁護』として聞き流されてしまう」
 アマリエが一通り話終わると、レオノーラ妃がため息をついた。けれど驚きから脱しきれないリーヴェとは逆に、人が説明するのを聞いて心の中でいくらか整理がついたのだろう、その表情は常の冷静なものに戻っていた。
「そのような経緯で、アグレル公を無事に王宮へ護衛するための騎士を送りたいのです」
 敵がどの程度の規模をアグレル公に差し向けるかわからない。そのため、ある程度の人数を派遣したいレオノーラだったが、一方でこちらの動きをヴィカンデル卿やシャーセには知られたくない。
「だから分散して派遣します。敵方の監視も分散されるので、こちらも動きやすくなるでしょう。その一隊と共にリーヴェ、あなたにもアグレル公の元へ行ってほしいのです」
 リーヴェが呼ばれた理由は承諾できたので、了承を告げる代わりにレオノーラへ一礼してみせる。
 レオノーラの方もようやく微笑んで、リーヴェに告げた。
「風邪を引いたと聞いているわ。だからリーヴェ、ちょっと温泉地まで静養へ行って、ついでに寄り道をしてくれるかしら?」
 名目上は、女官が静養を願い出て、レオノーラが彼女に護衛をつけるという形をとるらしい。
 それとは別に、アグレル公を迎えに行くと、堂々と出発させる一隊も作る。こちらは敵の目を惹き付けるためのものだ。
「おそらく貴方が一番早いと思うの」
 敵はフェイントとなる騎士だけの一隊を無視できない。彼らを逃せばアグレル公の守り手が増えるだけなので、必ずそちらに人員を割く。そしてリーヴェは普通の女官と違い、自身が馬に騎乗して走ることができる。真正面からぶつかる騎士だけの一隊よりも速いだろう。
「我が従兄を頼みます」
 レオノーラに頼まれて、リーヴェはもう一度深く礼をした。
「承りました」

 

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