Celsus
オリジナル小説を掲載しています。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
大陸でも北に位置するステフェンス王国王都は、夏の盛りを過ぎようとしていた。
真夜中ともなれば、風はやや涼しくなるほど。そして生を謳歌する夏をなつかしむように、虫の音があちこちの草むらから聞こえて来るのだ。
そんな中でも王宮は、常と代わらず夜でもなお真昼のように明るく、空の一点から動かない導星のように、王都のどこからでもみつけることができる。
けれども、ある一角だけは違った。
そこは王宮の端。窓の向こうに、神殿の背後に造られた王の墓所が見える場所だ。
普段、この部屋は、王宮に伺候した貴族が逗留のためあてがわれる。が、墓が見える場所ということで、あまり清々しい眺めとは言えず、皆に倦厭される部屋だった。
が、今日は『この部屋だからこそ』と逗留したある貴族がいた。
その貴族は主催するサロンのために、廊下から漏れ出る光を扉で隔て、明かりは部屋の中央に座る人物が持つ、蝋燭一本のみとしていた。
香草と蝋の肌にはりつくような匂いが漂う中、中央にいる人物は物語る。
暗い場所こそが似合う話を。
「そして女の肩に誰かが手を置いた。誰だろう、そう思った女は振り返り――そこに苦悶の表情を浮かべた白い影を見つけた!」
聞いていた彼女は、折良く聞こえて来た烏の声に、思わず悲鳴を上げそうになった。
寸でのところで抑え、自分の口を手で塞ぐ。
いけない。
声を出してしまったら、こんな『怪奇サロン』に来ている自分の正体がばれてしまう。明日から王宮内外のおしゃべり雀達に、なんて噂をされるかわからない。
涙目になりながら必死に我慢する。
せめてと自分を覆うように、姿を隠している黒いローブのフードを下げようとした。
が、今度は目の前に白い影が過ぎった気がした。
思わず悲鳴を上げかけた。
さっと目の前を、羽虫を払うように動かされた手。
白い手袋が凪いだあと、影はまぼろしのように消えてしまっていた。
彼女は目をまたたかせ、手の主をフードの影からそっと見上げる。
自分の横には、同じように黒いローブで姿を隠した、背の高い人物がいた。長い髪の一部がフードからこぼれ、蝋燭の明かりで金に輝いている。
ふっとその人が顔を上向けた。
その時フードがずれて、その憂いを帯びたような秀麗な横顔が覗く。水色の瞳をした青年だ。
彼女は一瞬見とれて……そして確信した。
(きっと彼こそ……私が探していた人)
再び彼の顔が見えなくなっても、彼女はそっと、彼のことを見つめ続けた。
そして彼の事ばかりに集中していた彼女は、もう怖い話も、恐ろしくは感じなくなっていた。
真夜中ともなれば、風はやや涼しくなるほど。そして生を謳歌する夏をなつかしむように、虫の音があちこちの草むらから聞こえて来るのだ。
そんな中でも王宮は、常と代わらず夜でもなお真昼のように明るく、空の一点から動かない導星のように、王都のどこからでもみつけることができる。
けれども、ある一角だけは違った。
そこは王宮の端。窓の向こうに、神殿の背後に造られた王の墓所が見える場所だ。
普段、この部屋は、王宮に伺候した貴族が逗留のためあてがわれる。が、墓が見える場所ということで、あまり清々しい眺めとは言えず、皆に倦厭される部屋だった。
が、今日は『この部屋だからこそ』と逗留したある貴族がいた。
その貴族は主催するサロンのために、廊下から漏れ出る光を扉で隔て、明かりは部屋の中央に座る人物が持つ、蝋燭一本のみとしていた。
香草と蝋の肌にはりつくような匂いが漂う中、中央にいる人物は物語る。
暗い場所こそが似合う話を。
「そして女の肩に誰かが手を置いた。誰だろう、そう思った女は振り返り――そこに苦悶の表情を浮かべた白い影を見つけた!」
聞いていた彼女は、折良く聞こえて来た烏の声に、思わず悲鳴を上げそうになった。
寸でのところで抑え、自分の口を手で塞ぐ。
いけない。
声を出してしまったら、こんな『怪奇サロン』に来ている自分の正体がばれてしまう。明日から王宮内外のおしゃべり雀達に、なんて噂をされるかわからない。
涙目になりながら必死に我慢する。
せめてと自分を覆うように、姿を隠している黒いローブのフードを下げようとした。
が、今度は目の前に白い影が過ぎった気がした。
思わず悲鳴を上げかけた。
さっと目の前を、羽虫を払うように動かされた手。
白い手袋が凪いだあと、影はまぼろしのように消えてしまっていた。
彼女は目をまたたかせ、手の主をフードの影からそっと見上げる。
自分の横には、同じように黒いローブで姿を隠した、背の高い人物がいた。長い髪の一部がフードからこぼれ、蝋燭の明かりで金に輝いている。
ふっとその人が顔を上向けた。
その時フードがずれて、その憂いを帯びたような秀麗な横顔が覗く。水色の瞳をした青年だ。
彼女は一瞬見とれて……そして確信した。
(きっと彼こそ……私が探していた人)
再び彼の顔が見えなくなっても、彼女はそっと、彼のことを見つめ続けた。
そして彼の事ばかりに集中していた彼女は、もう怖い話も、恐ろしくは感じなくなっていた。
PR
最新記事
(10/19)
(01/25)
(06/22)
(05/29)
(04/26)
カテゴリー
プロフィール
HN:
奏多(佐槻奏多)
性別:
非公開
自己紹介:
気の向くまま書いた話を、気が向いた時にUPしていきます。
著作権は全て奏多に帰属します。ご注意下さい。
※R18作品は今のところ一切書いていません。
ご用のある方は↓(★を@に変更して)まで。
kanata.tuki★live.jp
著作権は全て奏多に帰属します。ご注意下さい。
※R18作品は今のところ一切書いていません。
ご用のある方は↓(★を@に変更して)まで。
kanata.tuki★live.jp
カウンター
ブログ内検索
アクセス解析