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 大陸でも北に位置するステフェンス王国王都は、夏の盛りを過ぎようとしていた。
 真夜中ともなれば、風はやや涼しくなるほど。そして生を謳歌する夏をなつかしむように、虫の音があちこちの草むらから聞こえて来るのだ。
 そんな中でも王宮は、常と代わらず夜でもなお真昼のように明るく、空の一点から動かない導星のように、王都のどこからでもみつけることができる。
 けれども、ある一角だけは違った。
 そこは王宮の端。窓の向こうに、神殿の背後に造られた王の墓所が見える場所だ。
 普段、この部屋は、王宮に伺候した貴族が逗留のためあてがわれる。が、墓が見える場所ということで、あまり清々しい眺めとは言えず、皆に倦厭される部屋だった。
 が、今日は『この部屋だからこそ』と逗留したある貴族がいた。
 その貴族は主催するサロンのために、廊下から漏れ出る光を扉で隔て、明かりは部屋の中央に座る人物が持つ、蝋燭一本のみとしていた。
 香草と蝋の肌にはりつくような匂いが漂う中、中央にいる人物は物語る。
 暗い場所こそが似合う話を。
「そして女の肩に誰かが手を置いた。誰だろう、そう思った女は振り返り――そこに苦悶の表情を浮かべた白い影を見つけた!」
 聞いていた彼女は、折良く聞こえて来た烏の声に、思わず悲鳴を上げそうになった。
 寸でのところで抑え、自分の口を手で塞ぐ。
 いけない。
 声を出してしまったら、こんな『怪奇サロン』に来ている自分の正体がばれてしまう。明日から王宮内外のおしゃべり雀達に、なんて噂をされるかわからない。
 涙目になりながら必死に我慢する。
 せめてと自分を覆うように、姿を隠している黒いローブのフードを下げようとした。
 が、今度は目の前に白い影が過ぎった気がした。
 思わず悲鳴を上げかけた。
 さっと目の前を、羽虫を払うように動かされた手。
 白い手袋が凪いだあと、影はまぼろしのように消えてしまっていた。
 彼女は目をまたたかせ、手の主をフードの影からそっと見上げる。
 自分の横には、同じように黒いローブで姿を隠した、背の高い人物がいた。長い髪の一部がフードからこぼれ、蝋燭の明かりで金に輝いている。
 ふっとその人が顔を上向けた。
 その時フードがずれて、その憂いを帯びたような秀麗な横顔が覗く。水色の瞳をした青年だ。
 彼女は一瞬見とれて……そして確信した。
(きっと彼こそ……私が探していた人)
 再び彼の顔が見えなくなっても、彼女はそっと、彼のことを見つめ続けた。
 そして彼の事ばかりに集中していた彼女は、もう怖い話も、恐ろしくは感じなくなっていた。

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