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「絶対に出席すべきですわ」
 所用から戻って来たアマリエは、招待状の件を聞くなりそう答えた。
「どうも王女殿下は、あちらこちらに招待状を出していらっしゃるご様子。もちろんシャーセにもです」
「シャーセにも!?」
 雷が収まってきて、ようやく落ち着いたらしいシグリが驚きに目を丸くする。
「大変! すぐにも用意しなくちゃ!」
「衣装っ、衣装を選んできますわ!」
 シグリが走り出すと、いつもは落ち着いているエヴァまでが、衣装部屋へと駆け去った。
 そしてリーヴェに、アマリエが指示する。
「近衛騎士を三人。宴がどれほどの長い時間になるかわかりません。嵐が過ぎるまでと考えて、ホーヴァル隊長に依頼を」
「わかりましたっ!」
 リーヴェは返事をするなり、執務室を飛び出して行った。

 アマリエは、リーヴェが出て行った扉をじっと見つめていた。
 やがてふっと口の端を上げる。 
 そこへ、衣装を抱えて戻って来たシグリが入ってきた。シグリはアマリエと目が合ってぎょっとしたように立ち止まる。
「あ、アマリエ様。私何かしました?」
 怯えながら尋ねたシグリに、アマリエは笑みをくずさずに答えた。
「いいえ、あなたじゃないわ」
 そして付け加える。
「驚かせてごめんなさいね。ちょっと計画の進行が順調で、嬉しくなってしまっただけなの」
 頬に手をあててうっとりとしているアマリエに、シグリはわけがわからないながらも、怖くなって一歩後退る。
 そこに、呼んだ召使いに茶器を預けたエヴァが声をかけてくる。
「アマリエ様、リーヴェはどこへ行ったのでしょう?」
「あの子は騎士隊長の所まで行ってもらったわ。警備……そう、警備の件で連絡するようにって」
 そしてうふふふとアマリエは笑う。
「でも警備のことでしたら、すぐ隣の控えの間にいる騎士に言えばいいのでは」
 不思議そうにエヴァが言えば、アマリエは「それじゃだめなのよ」と首を横に振った。そして返事をしたものの、最後の方は独り言のように小さくて、エヴァには聞き取れなかった。
「だって肝心な人間がいないんですもの。接触は多く持ってもらわないと……。私の計画通りに二人の仲が進展しなくちゃ、面白くないわ」
「肝心なって、ご用があったのはホーヴァル隊長では?」
 エヴァが尋ねるが、もうアマリエは答えを返さなかった。ふふふと笑うばかりである。
 その様子にさすがのエヴァも、引き気味になったのだった。

 一方のリーヴェは、いつもより薄暗い王宮を急ぎ足で移動していた。
 もちろん、女官でありながら騎士兼務なリーヴェは、控えの間に騎士スヴェンやアーステンがいることを知っていた。
 が、それはアマリエも知っている事だ。
 そこをわざわざリーヴェに頼んだのだから、何か理由があるのだろうと考え、アマリエにとって都合の良いように曲解していた。
「警備は二人がいるから、わたしが伝令に行っても大丈夫だものね」
 護衛が控えているので、リーヴェに用を頼んでも大丈夫だと判断したのだろうと考えたのだ。
 そうしてリーヴェは、疑いもなく隊長がいるだろう近衛騎士の宿舎へと向かっていた。
 嵐のせいで、王宮の中には女官どころか侍従や、登城したまま嵐に巻き込まれたはずの貴族の姿すら見えない。曇り空のせいで増している薄暗さとあいまって、寒々しい雰囲気だ。
 暗い王宮の廊下の先にある、彫刻が手にやわらかく当たる両開きの扉を開ける。
 この先の列柱回廊の先に、騎士達の宿舎はある。そこに隊長室もあるのだ。
 が、
「うぷっ……」
 吹き付けてくる風と雨に呼吸もままならない。慌てて扉を閉めなおした。
 それでも一瞬で、ドレスのスカートが濡れてしまっている。
 リーヴェはちょっと考えた。
 これでは雨用の外套を持ってきても、やはりドレスは濡れるだろう。
 ならば時間を優先すべき。
 結論付け、リーヴェはもう一度嵐の中をつっきることにした。
「あたたたたた」
 ふきつけてくる雨が痛い。顔を腕で庇いながら、横風に耐えつつ柱廊を進む。
 前は見えないものの、なにかにぶつかったので、柱廊を渡りきったと思った。が、どうも扉っぽくない。布の手触りがすることに変だと思って顔を上げると、
「嵐だとわかってるだろうに、お前は……」
 見下ろしてくるセアンが、非常にあきれた声で言った。
 彼は全身を覆うローブのような雨具を着ている。
「や、ちょっと急いでたから。どうせ後で着替えるし」
 それなら濡れてもいいかと思ったのだが、セアンにぺしっと額を軽く叩かれる。
「風邪を引くだろう」
「少しの間だけなら大丈夫だってば。それより隊長そっちにいる?」
「王宮にいる」
「ああーーー!」
 なんてことだろう。これでは濡れ損ではないか。
 少し落ち込んだものの、まぁ結局は着替えるわけだしと思い直したリーヴェは、くるりと反転して王宮へ戻ろうとする。
 今度は追い風だ。
 ずぶ濡れの上、風があたると背中が寒い。
 でも顔に当たらないのでマシだなと思っていたら、ふいに背中に雨風が当たる感覚がなくなった。
「ほらさっさと行け」
 セアンがリーヴェの背後にいた。
 庇ってくれている。
 それがわかったとたん、リーヴェはなんだか落ち着かない気分になった。
 だから逃げ出すように走って、柱廊から王宮の建物の中へと逃げ込む。
 けれどもセアンも同じ場所へ向かっているのだ。後から入ってきた彼は、雨具を脱いで水をいくらか落とすと、再び歩き始めた。
「歩きながら話せる用事ならば、俺が隊長に話しておく。その間にお前は着替えてしまえ」
 そう言って背中をおされる。
「う、うん」
 促されるままにリーヴェも歩き出した。
 ぽつぽつと、招待状と警備の件について話す。
 思わず目をそらしてしまいがちになるのは……きっと、最近『こういうこと』が多いせいだと思う。
 今までは、男友達のような対応だったとリーヴェは思う。
 雨風に当たったところで、隣に立って歩くような状態だった。
 けれどこのごろは、どうも女性扱いされているように思えるのだ。
 さりげなく風上に立つだけではなく、今のように用事を肩代わりしてくれることも多い気がする。階段を下りるときに手をさしのべられたことなども、今まであっただろうか?
 そうして身を気遣われるのが、リーヴェにとってはあまりないことだからか、心がそわそわとした。
「では、俺が知らせてくる」
 言われて、リーヴェはいつの間にか王妃の居室近くまで来ていることに気づいた。
「あ、うん。お願い」
「あまり風邪をひくような真似をするな」
 セアンがそう言って、リーヴェの前髪に触れた。
 さわり、と首筋が微かに震えた気がした。
「ありがと……」
 心配してくれたセアンに、なんとか礼を言ったものの、セアンはさっさときびすを返して歩み去ってしまう。
 その背中を見送りながら、リーヴェは思った。
(……どうしちゃったんだろ)
 女扱いみたいなことをされるようになったのは、リンドグレーン領を当地する、アグレル公爵を助けに行った後からだった。
 アルヴィドに言われて以来、からかいのつもりなのか、真に受けたのか、セアンは随分リーヴェを『女の子扱い』するようになったのだ。
 もしくはなにかリーヴェにはよく分からない事情とか、後ろの人の関係で、そういうことにしようと決めたのか。
 どちらにせよ、それでなぜ自分がこんなに動揺するのかがよくわからず、リーヴェは戸惑う。
 しかし悩んでみたものの、答えがでるわけがない。
 リーヴェはあきらめ、自室に戻って着替えを始めた。

 

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