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 宴の会場は、王女エリシアの居室に近い場所だった。
 舞踏会を開けるほどの大きさはなく、けれども四十人余りなら余裕を持って座れる場所と卓が設けられる広さがある部屋だ。
 夜の間と呼ばれるそこは、廊下に囲まれているため外には接していない。窓はあるが、花模様の色ガラスがはめ込まれた窓の外は、廊下である。
 そのため、嵐の音も遠い。
 雷鳴が聞こえないことで、エヴァは落ち着いた様子でソファに座っている。エヴァの右隣にいるレオノーラも、とことなくほっとしているように見えた。
 嵐で暗い日だからなおのこと明るく、と深紅のドレスを着たレオノーラを包むのは、部屋の隅にいる小楽団の音楽だ。
 弦楽器のみの音色がやわらかく流れる中、漂うのは甘い菓子と女性達の笑いさざめき。
 男性は護衛の近衛として連れてきたセアン達だけだ。宴は、女性だけが招待されているのだ。エリシア王女達の護衛である衛士でさえ、部屋の外へ出されてしまっている。けれどセアン達が許可されたのは、レオノーラの方がエリシアよりも位が高いからだ。それでも三人までと制限されたので、リーヴェと共にソファの傍に立っているのは、セアンとアーステン、トールだけだ。
 音楽と菓子に囲まれた中で、女性達はおしゃべりを楽しんでいた。
 茶会にも近い形式だが、一つ違うことは、菓子と同じテーブルに金や銀細工の宝飾品が並べられ、どこからか持ってきたのだろう棚に、幾つもの色鮮やかな布が陳列されていることだ。
 商品の傍には、この出張店舗を出した商人が立っており、品定めをする女性達に声を掛けては売り込みをしている。
 嵐でなくとも、自由に買い物を楽しむわけにいかない女官達は、この趣向をとても喜んでいた。
 シグリなどは商品に張り付いたまま、なかなか戻ってこないほどだ。
「あの子はもう……」
 時折人の流れの向こうにシグリの白っぽいドレスが見える度、エヴァがふっと息をついている。が、レオノーラの左となりにいたアマリエは、半透明の薄い羽を広げた扇で口元を隠しながら笑う。
「一人ぐらい無邪気に喜ぶ人がいないと、不自然でしょうからかまわないわ」
 それもそうかとリーヴェは思う。招かれたあげく、趣向を誰一人楽しんでいる風ではないのは怪しすぎる。
「あなたも行ってらっしゃいエヴァ」
「そ……そうですか?」
 促されて立ち上がったエヴァは、不承不承といった風ではあったものの、内心はシグリのように買い物をしたかったのかもしれない。鶯色のドレスの裾を持ち上げてシグリの元まで行くと、熱心に銀細工を手に取って商人と話し始めた。
「それにしても、王女が暗い場所が嫌いって本当だったんですね」
 リーヴェはどこよりも煌々と燭台の明かりに照らされている一角を見る。
 壁に設えられた燭台だけでは足りないと、さらに四本の支柱に燭台を取り付けて自分の傍に置いている人物がいる。
 金褐色の髪をした王女エリシアだ。
 国王の妹だが、生母が異なるという。年は15歳と聞いた。
 繊細そうな顔立ちだが、気が強そうな目で時折辺りを見ている。エリシアがそんな風にしているのは、横で無邪気に女官と話をしている同じ金褐色の髪の弟、10歳になるベルセリウス王子のことがあるからだろう。
 二人の母親である前王の第二妃は、前国王が崩御して以来王宮を離れ、故郷の領地で暮らしているという。
 幼い姉弟を王宮に残したまま、だ。
 なぜそのようなことになったのか。リーヴェはよく事情を知らないものの、そのせいで姉であるエリシアが、ベルセリウスの保護者として気を張っているらしい、という話は伝え聞いていた。
 なにせ、王妃レオノーラと国王アンドレアスの仲が改善されなければ、ベルセリウスの価値は高まっていく。
 彼は王位継承権を持っているのだ。
 兄であるアンドレアスに万が一のことがあれば、継承権第一位のベルセリウスが登極するのだ。
 娘しかいないシャーセだが、彼女は娘を王位に最も近い場所へと押し上げたいらしい。そのため、ベルセリウスに娘を嫁がせて、正式な王妃とすることを考えているらしいと噂されている。
 一方、レオノーラとしても子供が生まれない場合の次善の策として、ベルセリウス王子を取り込み、縁者のだれかを王子の花嫁として、リンドグレーンの権利をレオノーラや故郷のアグレル公の元へ留めたいと考えていた。
 そういう意味で、こうして王女が招いてくれたことは千載一遇のチャンスでもあった。
 好機であるというのは、シャーセ側にしても同じことだった。
「王女様」
 エリシア王女から少し離れた場所で、女官に話しかけられている少女がいた。
 5歳ほどのまだ幼い黒髪の少女は、名をウェスティン王女という。彼女こそ、シャーセがアンドレアスとの間に設けた子供である。
 何をしゃべっているのか詳細までは聞こえない。が、どうも女官は王女をエリシア王女の元へ連れて行こうとしているようだ。
 けれどまだ物心もついていない子供のこと。気が進まず渋っていたようだったが、近くのカウチに座っていた母親シャーセに何かを言われたとたん、びくっとおびえたような表情をして、しかたなく女官の導きに従い始めた。
 リーヴェはアマリエと視線を交わし、そっと席を立つ。
 最初は、王女達から遠い右手のテーブルに近づいた。
 菓子を摘みつつ、他のテーブルへと移動していく。
 銀や金の輝き、燭台の明かりに照らされた紅玉や藍玉の美しさに目は引かれるが、それにかまけていてはいけない。
 とにかくシャーセ側がウェスティン王女に何をさせようとしているのか、近くで見ておきたかった。
 アマリエ達は、会話を垣間聞くことを期待している。けれどリーヴェが確認したいのは、それだけではない。
 王族の血を引いているならば、もしかするとウェスティン王女も『賢者の力』を扱える可能性がある。その力でエリシアやベルセリウスの心を操るかもしれない、と危惧していたのだ。
 奥へとテーブルを移動した時、隣に並んだ人物がいた。
「セアン」
 宴の直前、リーヴェと件の危惧に対して話していたセアンは、わかっているとうなずいた。
 そしてセアンは、リーヴェと会話を交わすために移動する風を装い、リーヴェの手を引いてエリシア王女に近い部屋の隅へ一気に移動する。
 ちらり、とエリシア王女がこちらを見たような気がしたが、それよりも重要なことがあった。
 いよいよウェスティン王女が、エリシアの前へやってきたからだ。

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