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 傭兵団の者達も、護衛兼任ということで同じ宿に部屋を与えられた。
 アグレル公は自分を救ってくれた彼らにも気前よく振る舞い酒をし、そのため傭兵達はアルヴィドの部屋に集まって大いに飲んだくれていた。
 しかし、明日はまだ王都へ向かって発たねばならない。
 それをわきまえている彼らは、夜が深まると、早々に自分達の部屋へと引き上げ、残ったのは引き留められたリーヴェとアルヴィド、そしてセアンだけとなる。
「それにしても、前よりは腕を上げたなリーヴェ」
 酒を口にはこびながらのアルヴィドの言葉に、リーヴェはえへへと笑み崩れる。
 ほんの一時とはいえ、指導してくれた人に褒められるのは、とても嬉しかった。
「そういえば団長たちって、この仕事が終わった後は、どうするの?」
 傭兵団は基本的に争いをもとめて動く組織だ。王都まで送り届けてもらった後も、長くは留まらないだろう。
「また、バルタとの国境あたりだな。あの辺はいつでも飯の種に事欠かないだろ」
 ステフェンスの東にあるバルタ王国。
 かの国とステフェンスは、長いこと国境の線引きについて争い続けている。戦争のような大規模のものではなくとも、小さな紛争ならば常に転がっているような状態だ。
 唯一バルタの国境で穏やかな土地といえば、厳しい寒さが続く北方だけではないだろうか。あそこでは、紛争する余裕もない一方で、険しさと寒さから、軍隊が国境代わりの山を越えることも難しい。
「西の方も最近は動きがあると聞いたが」
 グラスを片手に足を組んで座っていたセアンが言う。
「ああ、ウェルデンが十年前にとられた土地を奪還すると、息巻いてるらしいな。そういえば……」
 アルヴィドがグラスを卓に置く。
「ウェルデンがらみでこの間、珍しい話を聞いた」
「何?」
 あいづちをうったリーヴェに、アルヴィドがにやりと笑う。
「ウェルデンが十年も手をこまねいていた理由だ。あそこは三年前なんかは豊作でな。兵糧に問題もないのに、一向に軍勢を送り込もうとはしなかった。なんでかっていうと、最短経路に魔の森があるからだっていうんだ。そこを迂回するために、十年掛けて別な道を造ったらしい」
「魔の森?」
 お伽噺みたいだなと思いながら、リーヴェは聞き返す。
「なんでも、森に入ったら最後、発狂してしまうって曰く付きの場所だ」
 発狂と聞いて、リーヴェが思い浮かべたのはヴァルデマー公爵に使われていた麻薬だ。
「中に住みついた人間が、何か麻薬をばらまいたとか?」
「そう思って、集団で中に踏み込んだ奴らが数十年前にもいたらしい。もちろんそいつらは麻薬に対して完全防備していった。が、唯一無事に逃げ帰ってきた人間の話だと、何の匂いもしなかった。煙の臭いすらしなかったらしい」
「なんか、お伽噺みたいね。ほら、年経た獣が魔に変じて、山奥にやってきた人間に幻を見せたり、みたいな話があるじゃない?」
 話題がマズイ方向へむかっている、とリーヴェは感じた。だから向きを変えようとしてみたが。
「他にも似てるお伽噺はあるだろ? ステフェンスの初代王に仕えた賢者とかな」
 リーヴェは言葉に詰まる。
(団長、わざとだ……)
「ま、まぁね」
 でも上手く誘導する術を思いつかなかったリーヴェは、せめて疑われないようにと相槌をうつ。
「でだ。俺は今回お前達から依頼を受ける前、契約を破棄した雇い主と会った後で、ウェルデンのその話を思い出した」
 あと、とアルヴィドが付け加える。
「そういえば逃げ帰ってきた人間が言うには、森の中には確かに人がいた。けれどその人物が何かをばらまくと、仲間達は次々に倒れていったという。そして命からがら逃げた後で、そいつは自分の衣服の隙間に、何かが挟まっているのを見て、仲間達が倒れた原因になった「何か」だと思って調査した。だが……それは、ただの草の種だった。麻薬の原料にすらなりゃしない」
 アルヴィドはじっとリーヴェを見た後、セアンに目を向けた。
「そういえば今日リーヴェが撒いてた薬とやら、俺には砂にしか見えなかったが……」
 しばらくの間、アルヴィドはセアンと視線を交えていた。
 やがてふっと視線をそらす。
「そろそろ俺たちも休む。それではな」
 セアンはリーヴェを連れて部屋を出た。
 廊下を歩き、階段を上った二階へと上がった。そしてリーヴェを彼女の部屋の前へ連れて来ると、黙ったまま自分の部屋へ立ち去ろうとする。
「セアン……あの、団長のことだけど」
 話しかけると、セアンは足をとめた。
「随分勘のするどい男だな」
「ど、どうする?」
 このままでは、団長にセアンのことがバレてしまうのではないだろうか。不安に思ったリーヴェに、セアンはゆるく首を横に振る。
「どうにもしようがない。記憶を消すのもおかしいだろう」
 あの戦闘の記憶を消せば、彼自身も変だと気付く。周りの傭兵達も不審がるだろう。
 そしてますますリーヴェやセアンを疑う。
「知らないふりをするしかないだろうな。何をしても、こちらが正直にしゃべるのと同じ事になる」
「そっか……」
 あとは、アルヴィドが気付いたことを、誰にも話さないのを願うだけだ。
 リーヴェは部屋の中に入り、寝台に転がってため息をつく。
 団長は、なんでもしゃべってしまうような人ではない。リーヴェのことを団に誘ってくれるほどなのだから、きっとリーヴェと一緒にいるセアンのことも、悪くはしないと思う。
 それでも不安な気持ちが残って、リーヴェはなかなか寝付けなかった。
 が、やはり疲労が溜まっていたのだろう。
 朝の光に目を覚ましたリーヴェは、自分が眠っていたことに気付いた。


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