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 一週間後、アグレル公は無事王宮へ到着した。
 ほっとしたリーヴェ達だったが、まだ別な関門が待っていることを忘れていた。
 迎えに出たエヴァ達の、笑顔にひそむ不安を見て取り、そういえばと思い出す。
 アグレル公は、謀反の疑いをかけられていたのだ。
 しかしアグレル公の方は、全くなにも不安がなさそうな表情だ。国王の侍従が謁見の間へ案内する際、こわばった表情だったにも関わらず、手土産という箱を部下達にいくつも持たせながら上機嫌で歩いて行った。
 リーヴェはエヴァ達に頼み、アグレル公が身支度をする間に旅装をあらため、謁見の間の隅からこっそり様子を覗くことにした。

「リンドグレーン領主、バート・アグレル公爵」
 式典官の呼ぶ声が響き、アグレル公はゆっくりと謁見の間へ入場してきた。
 白大理石の床の上を歩くアグレル公は、やはりなんの悩みもなさそうな顔をしている。
 アンドレアスとレオノーラが座る玉座の前までやってきたアグレル公は、膝をついてかしこまった。
「本日所領より到着いたしました。リンドグレーンの地は前年も穏やかに季節が過ぎ、民たちは憂いなく過ごしております」
「そうか。領地のことは後で王妃に報告するがいい」
 アンドレアス王が、落ち着き無くアグレル公の言上に割入った。
「それより、そちには問いただしたい事がある」
「といいますと?」
 アグレル公は「何のことでしょう」とばかりに首をかしげる。
 精一杯威厳を込めたのだろう、アンドレアスは妙に低めな声で告げた。
「そなたには、謀反の疑いがあるのだ」
 それを聞いたアグレル公は、数秒間があってからぼんやりしたように言った。
「といいますと、どのような?」
「しらばっくれてはならぬぞ。そなたが港にてバルタの者と接触したのではないかと密告があったのだ」
「港でございますか」
「港だとも。リンドグレーンにはいくつか港があろう。今公都になっている場所で、不審な外国船と取引をしたという話が……」
 そこまで聞いたアグレル公は、ぽんと手を打った。
「ああ、それはランゼルの船ですな!」
 アグレル公は満面の笑みを浮べて言った。
「ランゼル? というと、あの海の向うの……」
「左様にございます王妃様。おそらく交易船の証明旗のない船だったので、バルタの船ではないかと疑われたのでしょう。こちらとの交易船には、必ず証明となる旗を備え付けて入港するようになっていますが、国交が途絶えているバルタの他にも、嵐で航路を外れた船や、緊急入港してきた他国の船も、証明旗は持っておりませんからな」
「し、しかし。その他国の船にそなたが乗り込んで密会を繰り返したと……」
 まだ疑惑が拭いきれないと主張するアンドレアスに、公爵は尚も笑顔をくずさない。
「それは両陛下のために、ぜひ献上したい荷を積んでおりまして、交渉するためでございますよ。さ、箱の中身を陛下にお見せしなさい」
 アグレル公は後ろに従っていた従者達に声をかける。
 彼らは彫刻がほどこされた木箱をアグレル公の前に並べ、一つ一つ蓋をあけていった。
「お、おおお!?」
 中身を見たアンドレアスが立ち上がる。
 隣にいたレオノーラも、驚いたように目を瞬かせた。
 箱の中にあったのは、薄紅と金の混じり合う色をした、大小様々な大きさの波形の貝だった。
「金色をした貝とは……見たことがない」
「左様でございましょう?」
 嘆息するように言ったアンドレアスに、アグレル公はうなずきながら説明した。
「ランゼルの船は、この貝をとりに沖へ出て、嵐で流されてきたのだそうです。そして港まで流れ着いて、補給や修復を望んでおりました。で、代金の代わりにと見せられた貝があまりにめずらしく、ぜひ両陛下のおそばにと、彼らから半数を買い上げてまいりました」
 どうぞお納め下さい。
 そうアグレル公が平伏すると、アンドレアスは疑惑など頭から吹き飛んだ様子で喜び、アグレル公をねぎらった。
 アグレル公を糾弾しようと、手ぐすねひいていたらしいシャーセ派の大臣たちは、アグレル公の説明におかしなところがないので追求できずにいる。
 そしてレオノーラは、ようやく安心したように微笑みを浮べていた。

   ***

「今回はいろいろありがとう」
 王宮の庭先で、王妃からの礼の品としていくつかの宝石、そして契約料を受け取ったアルヴィドに、リーヴェは手を差し出す。
 手を握り返したアルヴィドは、にやりと笑ってリーヴェに顔を近づけた。
「契約だからな、気にするな。これからお前も元気でやれよ」
 そして付け加える。
「とりあえずお前を不幸にしない間は、そいつの秘密については黙っててやるよ」
「え、ちょっ、団長!?」
 呼び止めるが、アルヴィドはさっさと離れた場所で固まっていた団員達のところへ行き、手をふりながら庭から去ってしまう。
「えええぇぇぇぇ? なにそれ!」
 まず驚いたのは、やはりアルヴィドがわかっていて賢者の話をしたらしいことだ。
 確証がない事をしゃべっていたわけではないのだ。アルヴィドは、はっきりとセアンを、賢者と同じ力を持つ人間として認識していた。
 しかし黙ってやると言われても、落ち着けない。
 セアンに不幸にされるとか、あきらかに娘の近くにいる男を警戒する、父親みたいな台詞ではないか。
 そんな関係じゃないのに、一方的に敵意をもたれたセアンは、嫌な気分になったに違いない。
「ごめんセアン! なんか変な事言ってたけど、たぶん団長ってば親みたいな気持ちになっただけだと思うのよ。気にしなくってもだいじょうぶだから!」
 するとセアンはじっとリーヴェを見つめてくる。
「だが、万が一あっちがそう判断して秘密がばれたとしたら……」
「う……。そうならないように、せいいっぱい幸せそうな振りするから! セアンにはいろいろ恩があるし、絶対秘密は話さないように、今度団長にきっちり念押すから!」
 リーヴェの返事を聞き、セアンがうなずいた。
「そうだな。なにせ秘密を守るために死ぬかどうかまで考えるくらいだからな」
 それを言われて、リーヴェは無性に恥ずかしくなる。
 悩み真っ最中の頃は、恥ずかしいとかそういう感情は吹っ飛んでいたのだ。が、今この状況で聞かされると、まるでリーヴェがセアンに命をかけるほど……みたいではないか。
 するとセアンがぽんとリーヴェの頭に手を触れる。
「ま、不幸にしないよう努力するか。秘密を一生守ってもらうんだからな」
 言ったセアンは、ふっと笑いながら手を離し、さっさと王宮の中へ戻っていく。
「秘密はもちろん守るけど……え、ちょっと待って? 一生って、え?」
 一人取り残されたリーヴェは、セアンの言葉を反芻した。
「不幸にしないとか一生守るとか、なんかそれって」
 結婚相手にするような台詞ではないか。
 そう思ったら、リーヴェは恥ずかしさが規定値を超え、思わずその場に座り込んでしまった。

「そういえば、カールはどうしたんだろう」
 思えば、アンドレアスの侍従の中に姿がみあたらなかった。
 カールならば、きっと負けても捨て台詞のついでにリーヴェを脅してくるのだと思ったのだが。
 首をかしげたリーヴェは、今日はたまたまいないのだろうと結論付けた。
 そんなカールがリーヴェに風邪をうつされて寝込んでいたと知ったのは、数日後のことだった。

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