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Celsus
オリジナル小説を掲載しています。
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 自室はいくつもの蝋燭の明りで、ほんのりと明るかった。
 窓の外は暗闇に沈んでいる。
 その前にたたずんでいたセルマが、扉が開いた音にはっと顔を上げた。
「お待たせしました」
 リーヴェの挨拶に、彼女は戸惑った表情を向ける。
 まるで夜になって花を閉じてしまった花のようだ。
「ええと……その。今までごめんなさい」
 胸に手をあてて深く一礼して詫びてきた彼女は、既にリーヴェが女性だということを納得済みだった。
 ただ、その後話し合う暇なくリーヴェは打ち合せに引っ張られ、今まで部屋で待っていてもらったのだ。
「どうして私、あなたのことを男だと思ってたのか……。私と背もそう変わりありませんし、手首だって細いのに……。自分でもどうしてかよく分からないのですわ」
 今まで「どうして」と考え続けていたのかもしれない。悩み深そうに目尻を下げ、セルマはそう告白した。
 とはいえ、リーヴェの方も「そういう事もありますよ」と言うしかない。
 暗示をかけられたんじゃないとか。
 その暗示というのはシャーセの側にいる誰かからじゃないかとか。
 あまつさえ、その暗示は……なんて話をするわけにいかない。であれば、気のせいで済ませるしかないのだ。
 なにせ世の中には、他人の心を意のままに操る、魔法使いみたいな人間がいるなど、誰が信じてくれるというのか。
 いや、このステフェンス王国には、初代の王に仕えたという賢者の話はある。
 賢者は人の心を操り、他国の軍勢すら意のままに従わせたという伝説を持っているのだ。
 けれどそのことに気づかれては困るのだ。
 セアンの秘密に関わってしまうから。
 正直、アマリエ達もセルマの思い込みについて、かなり不思議がっていた。しかし、そちらに関してはリーヴェも「知らぬ存ぜぬ」を通せばいいのでわりと楽だ。
 けれどセルマは当事者なので、自分の心理変化が理解できずに悩むだろう。
 あまりにもかわいそうなのでリーヴェは彼女をなぐさめる。
「そういう事もあるんじゃないですか? ほら、だって出会いが出会いでしたし」 
「ええ。確かにあの時のリーヴェ様は本当に素敵で……」
 まだ少し暗示の余韻が残っているのか、セルマは自分の頬に手を添えて吐息をもらす。
「あまりに凛々しくて、私一気にリーヴェ様しか見えなくなって……。本当に、あんな風に守ってもらえたらってずっと思っていたのですもの。王様の権力の傘の下にいるのとは違う、自分をその手で守ってくれているんだって実感できるような、そんな人がいてくれたらって」
 セルマはリーヴェに勧められて椅子に座りながら続ける。
「私が女優というのはご存じですか?」
「ええ、ラルス様から。とても人気があると伺いました」
 彼女はにこりと微笑んだ。
「最初は私、学もない、教養もないただの村娘だったのですわ。それが劇を見る機会があって、憧れて、最初は舞台衣装のお針子として劇場に出入りするようになったんです。合間に、見よう見まねで歌を練習してみたり、それを女優に見つかって馬鹿にされたりして。当時の住いは下町の小さなボロ家でしたわ。家を飛び出してきた薄給の私には、そういった所しか住む場所がなくて。いろいろと……辛い事もありました」
 若い娘の一人暮らしとなれば、何があってもおかしくなかっただろう。
「それでも近所には優しい人もいて、励まされながら私がんばりましたわ。そんな私の進む道を破落戸なんかにめちゃめちゃにされたくなくて、退役した兵隊さんに剣を習ってみたりして。それが功を奏して、剣を振り回す端役をもらえたの。それが私の女優人生の始まり」
  だから剣を使える女性であるリーヴェに、親近感をおぼえるとセルマは笑った。
「それからはなんとか主演にまで上り詰めることができたわ。でも、そうなってみても私を心から守ってくれる騎士みたいな人はいなかった。のし上がった私は、とても強い女だと思われていたし。だから……憧れを目の前にして、浮かれてしまったのかもしれないわね」
 そう言ってセルマは寂しそうな笑みを浮かべる。
 リーヴェは胸がしめつけられるような気持ちになった。
 剣術の腕があっても、それと守ってくれる相手というのはやっぱり別だ。
 普段は自分の足でそれぞれ立っていたっていい。
 必要な時に身を盾にしてもかばってくれるような、気持ちを持ってくれる人がほしいと、リーヴェだって思う。
 夢だった女優になっても、権力者の関心を得ても、やっぱり自力で生き続け、さらには守ってくれる人もいなかったセルマにとって、初対面にもかかわらず敵の前に立ちはだかったリーヴェは、彼女の理想そのものだったに違いない。
 リーヴェは優しい同僚達がいるから、彼らと助け合えるからそういった寂しさを感じずにいられるだけだろう。わりと失礼なディックや心配など欠片もしていなさそうなトールですら、何かがあれば必ず手を差し伸べてくれると信じていられるから。
 なによりセアンは、きっと何があってもリーヴェを助けにきてくれる。
 彼の秘密の共有者だからだけではなく、そこに友情があるとリーヴェは信じていた。
「セルマさん……。私、私でよければまたお助けします」
 思わずそう言ったリーヴェに、セルマは目を見開く。
「でも、そんなに美人で素敵でがんばってるセルマさんなら、きっと私みたいなまがい物なんかじゃなくて、素敵なセルマさんだけの騎士が現れてくれますよ」
 一生懸命励まそうと言葉を連ねたリーヴェは、突然立ち上がったセルマによって抱きしめられる。
「あの、セル……」
「ありがとう」
 お礼の言葉に、彼女がリーヴェの言葉で心慰められたことを知り、リーヴェはほっとした。
 ぎゅうぎゅうとリーヴェを抱きしめて何度も「ありがとう」を繰り返した彼女は、リーヴェから離れると満面の笑みで宣言した。
「こうなったら私、なんとか陛下にあなたが女性だと納得して頂けるよう協力します!」


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