忍者ブログ
Celsus
オリジナル小説を掲載しています。
 207 |  209 |  210 |  211 |  212 |  213 |  208 |  214 |  215 |  216 |  217 |
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

町に到着した所で、あらかじめ先行する先触れが予約していた宿に入った。
 石造りの古い館を改装した宿で、大衆宿と違ってエントランスは広く、誰でも入れる食堂はない。食事は基本的に、部屋へ届けられるようになっているらしい。
 夕食までの間、しばらく休憩することになった。割り振られた部屋に入り、一人になったリーヴェは不意に落ち着かなくなる。
 なにせつい先刻、恐怖体験をした身だ。自分でも珍しいと思うほど心細くなっていた。今更ながらに、傍にいようと言ってくれたラルスの申し出を、断ってしまってとても後悔した。
 と、扉がノックされて、件のアマリエが顔を覗かせた。ちょっと表情がこわばったアマリエ
に、尋ねられる。
「お邪魔していいかしら?」
 リーヴェはもちろん、と彼女を中に招じ入れた。一緒に侍女のクリスティンも来るのかと思えば、彼女の姿はない。廊下を覗く仕草でそれと知れたのだろう。
「クリスティンは遠慮させたの。彼女、私に黙って内緒のことを暴露してしまったでしょう」
「あ、え、えと」
「隠さなくて良いわ。セアンと私の婚約についての話をしているの、聞こえてたから」
 アマリエは戸惑うリーヴェにかまわず、部屋の中央に置いた小さなティーテーブルの前に着席する。
 リーヴェはどう言えばいいものかとうろたえた。でも、アマリエがわざわざ一人で来たのだ。話題なんてあれしかない。自分も彼女の前に座り、切り出した。
「あのう、とりあえず伝言、つたえておきました」
 アマリエは難しい顔でうなずいた。しばらく黙っていたものの、やがてふっとため息をつく。
「あの方なにか、言ってらした?」
 リーヴェはどうしよう、と心の中で冷や汗をかく。言われた事はしっかり覚えているが、婉曲に表現できそうにない。どうか怒らないで欲しいと念じつつ、恐る恐るセアンのセリフを口にした。
「そんなに怒っていたのかって……」
 アマリエの眉間に、ぐっと皺が寄る。そばかすなんて一つも無い、なめらかな頬が紅潮した。
「そうよね。そういう人だわ。自分が言った言葉で、相手がどんなに傷つくかなんて思いもしないのよ」
 吐き捨てるように言ったアマリエと、視線が合う。
「ねぇ、他になんかしゃべってたでしょう? 聞かれない限り答えないけど、聞かれたら余計なことまでしゃべるのよあの男は」
 言われて、リーヴェは否定できなかった。
「えと、どんな断り方したのか、聞いてしまいました……」
 ずっと一緒に生活してきた侍女も知らないような秘密を知ってしまったのだから、怒られるかもしれないとびくびくする。そんな状態だから、アマリエが机を握り締めた手で叩いたとき、思わず「ひゃっ」と椅子から飛び上がった。
 しかし、アマリエの視線は机の上に注がれたままだった。
「本当に失礼な男だと思いません? リーヴェ。言うに事欠いて、顔が好みじゃないからだなんて断ってきたのよ? 十二歳のまだ子供だったくせにっ! あああ、許せない。失礼よっ、失礼すぎるわ! ませたこと言うならもっと別な断り方だってあるじゃないの! ねぇ?」
 同意を求められてうなずく。あれはリーヴェでもひどいと思った。
「なんか、手っ取り早く断ってほしかったとかなんとか言ってましたよ」
 そしてうっかり火に油を注いだ。
「そんなところも腹が立つのよ! 適当に断るにしても、なんであたしを怒らせなきゃいけないのかまったく理解に苦しむわ! しかも私に直接いわなくたっていいじゃない!」
「そうですよね。普通はご両親がお決めになることですから、本人同士の意向ぐらいで破棄にならない場合もあるじゃないですか」
「そうなのよ! だからあの人は姑息なの。あたしが怒れば、娘に甘いうちの両親が反対しないってわかっててやってるのよ!」
 アマリエの爆発はしばらく続いた。
 そうして全て話しきった彼女は、ひどくさっぱりした表情でリーヴェに言った。
「こんな話、クリスティンにもできなくて。聞いてもらって良かったわ」
「いいえ。なんか私も婚約以前の状態でしたけど、約束を破棄された身の上ですし。人ごとではないというか」
 断られた者同士ということで親近感が湧くなどと言ったら、怒られるのではないか。そう思ったリーヴェだったが、
「いいえ。あなたの婚約が上手くいかなかった件だって、やっぱり男が悪いのよ。剣が強いぐらいで避けるだなんてなんて情けない。世の中にはそんなことなど気にしない、もっと良い方がいるはずよ! そうだ王宮に来たら私が必ず紹介してあげるわ!」
 逆にそうして励まされてしまったのだった。


 

前ページ  目次  次ページ

PR
Copyright ©  Celsus  All Rights Reserved.
*Material by Pearl Box  * Template by tsukika
忍者ブログ [PR]
Admin ♥ Write ♥ Res
プロフィール
HN:
奏多(佐槻奏多)
性別:
非公開
自己紹介:
気の向くまま書いた話を、気が向いた時にUPしていきます。
著作権は全て奏多に帰属します。ご注意下さい。
ご用のある方は↓(★を@に変更して)まで。
kanata.tuki★live.jp
カウンター
web拍手
リンク
ブログ内検索
バーコード