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リーヴェはアマリエの馬車に同乗し、一行は出発した。
 他に同乗しているのは、侍女のクリスティンだ。アマリエは女だけになると、早速楽しそうに話しかけてくる。
「それにしても良かったわ、あなたが了承して下さって。どうしても公爵閣下の元へうかがわなくてはならないのに、私では警戒されてしまうもの。でも無理はなさらないでね。荒事は全部セアンに任せればいいから。面倒なことも、全部丸投げしていいわ」
 確かにセアンは強い。でもちょっと棘がありはしないだろうか?
 リーヴェは気になったが、尋ねるのもなんだと思ったので疑問を飲み込んでおく。
 アマリエも衣装の話を始め、その間も馬車は走り続けた。
 やがて次の宿場町も通り抜け、リーヴェ達は馬車の中で昼食を食べた。馬車に乗っていたアマリエの侍女クリスティンが給仕をしてくれたのだが、久々にお姫様生活を自分がすることになったリーヴェは、クリスティンを手伝おうとしてはたしなめられる、というのを繰り返していた。
 一方、食物を口にしたせいで、問題が発生した者が他にもいた。
「うっ……」
 突然馬車の御者台から飛び下り、街道横の茂みに走っていく者が一人。
 護衛兵に扮して同行している、医師のボーアだ。
 アマリエ達が出発する前から、一番問題になったのがボーアの乗り物酔い対策だった。自前の酔い止めは、飲み過ぎて効かなくなっているというので、前日に誰かが町まで別な医師の酔い止めを買い求めたほどだ。その調合が体に合ったのか、午前中は少し青白い顔をするだけで済むらしい。しかし食事を取ったりすると効果は半減。そこで少しでも外の空気をと思って、御者台に座らせていたそうなのだが。
 騎士達の停止の声が飛び交い馬車が止まる頃、茂みから藁色頭の三十代半ば過ぎの男性がよろよろと戻ってくる。顔は青白く、伸びきっていっそまともに見えるようになった髭と糸目のせいか、死にかけのヤギのようだった。
 本人とセアンが話し合い、どうしようかと相談している。
 せっかくだからと馬車の外に出て手足を伸ばしていたリーヴェは、そんなボーアを気の毒だなと思う。
 同じように馬車から降りたアマリエが、睡眠薬を飲んで、夜まで眠ってしまえばどうかと提案していた。
 しかしよくよく注意してみると、この三人の会話はどこかおかしい。アマリエがボーアに提案し、ボーアがセアンに伝え、セアンがボーアに答えている。
「どうしたんだい? じっとセアンのことばかり見て」
 観察していると不意に耳元で囁かれ、リーヴェは飛び上がりそうなほど驚いた。
「なっ、ちょっ、ラルス様!」
「なんだい?」
 脅かさないでくれと怒りそうになったリーヴェは、その無垢なほほえみに気勢をそがれて、うなだれる。
「いえ、いいです。あとその、別にセアンのことを見ていたわけでは……」
「いけないよ。これからしばらくは婚約者のフリをしなくてはならないんだから、よそ見をしたら疑われてしまうからね」
 ラルスはそう注意すると、興味深そうに自分もセアンの様子を眺め始めた。
「あの二人が一緒にいる所を見るのは初めてなんだが、こうも馬が合わないとは思わなかったな」
「もしかしてアマリエ様、セアンと喧嘩しているんでしょうか?」
 まるでお互いに、相手と会話をしたくないみたいだから。
 思わず呟いた言葉に、近くにいたクリスティンが答えてくれた。
「まぁ似たようなものです。あまり気にされない方がいいですよ。ご幼少の頃からのことなので」
「え、二人はそんな昔からのお知り合いなの?」
 驚くリーヴェに、クリスティンは『声を小さくして』と合図しながら、こそこそと教えてくれた。
「セアン様はアマリエ様の故郷と隣り合わせにご領地を持つ、エバートン伯爵家のご子息なのです」
 それはまた不思議だ。伯爵家の次男なら婿入り先を探して舞踏会やサロンに入り浸っているのが普通なのに、なんで騎士なんてやっているのだろう。
「第二子でいらっしゃる上、ご生母様が身分の低い方でいらっしゃるので……。おそらくはその関係で、ご実家に遠慮なさっているのかもしれません」
「なるほどね」
「まぁ、それはまた複雑な事情が……」
 ラルスとリーヴェが納得した時だった。
「それほど可哀相な人じゃないわよ」と横から声がかかる。
 リーヴェは心臓が跳ね上がるんじゃないかというほど驚き、クリスティンはしまったという顔をした。ただ一人、ラルスは気づいていたのかほほえみを崩すことはなかった。
「ご生母様は親戚方の手前、正式な奥方としてお迎えすることができなかったのよ。けれど、伯爵とは仲むつまじくお過ごしだったし、本人は嫡男として届け出てあるもの。他家のもっと複雑なお話よりは、わりと幸せなのではないかしら」
 確かにそこまで聞くと、あまり不幸そうではない。奥方とお妾の陰惨な話などどこにでも転がっているものだから、リーヴェもてっきり、そういう泥仕合的な事情があるかと思っていたのだ。
 それにしても驚いた。いつから聞いていたんだろうと思うリーヴェの前で、アマリエが続ける。
「まぁ、元々考えるのは面倒だと言っているような方でしたから。騎士はあの方にとって天職かもしれません。大人しく他家の婿になる姿が想像できませんもの」
 アマリエの発言は、やっぱり棘がある。
「皆さん、私に普通に聞いて下さってよかったのよ?」
「いや、個人的なことだからね。もし何か手を貸せそうであれば聞いてもいいけれど、その必要もなさそうだったから」
「ええ、全くですわ」
 イガイガしはじめたアマリエに、ラルスも苦笑する。
 そしてアマリエはリーヴェ達を置いて、さっさと馬車の中に戻ってしまった。ボーアももう一つの馬車に乗ってしまったようで、すぐ移動のようだ。
 では、とラルスはボーアのいるだろう馬車へ戻っていき、リーヴェもアマリエを追いかけようとした。
 するとクリスティンが小さな笑い声を漏らす。
「棘があると思われましたでしょう? 実はアマリエ様とセアン様は、ご婚約する予定だったんですが、破談になってからあの調子で」
 思わず「えええっつ!」と口に出してしまいそうになり、リーヴェは自分の口を手でふさいだ。
「は、破談?」
「何年も前のことなんですけどね。まだお二人が十二歳の頃でしたか。お父上同士でそういう話の流れになった翌日、セアン様が『そちらから断ってほしい』とアマリエ様におっしゃられたそうなんです。アマリエ様は理由を知りたがって、セアン様に何か言われたようなんですけれど……父上様や母上様だけでなく、私にまで一切教えてくださらないんです。ただただお怒りになって、それ以来万事あのような態度をなさって」
「なるほど……」
 リーヴェはこれからしばらく頼りにするべきアマリエの、触れるべきではない話題について一つ覚えた。
 セアンについて、彼女に話を振ってはいけない、ということだ。
 それにしても、一体どんな酷い断り文句だったのか?
 更に馬車に乗った後、アマリエが余計に気になるような伝言をよこしてきた。
「そうそう、私は話したくないので伝えてくれると有り難いのだけど。私のことは守って下さらなくて結構。他の騎士にお願いしますのでと言っておいて」
 隣でクリスティンが、肩を振るわせながら笑うのをこらえていた。

 

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