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Celsus
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 咄嗟にリーヴェはそのままセルマの腕を引いた。
「きゃっ!」
 一度抱き留め、彼女を投げるような勢いで石畳に下ろす。
「そこにいて!」
 叫んだリーヴェは、斬りかかろうとしたセルマが避けたことでたたらを踏んだ男の、剣を握った利き腕を掴んだ。
 そのまま噴水に突き飛ばそうとした。が、相手は慌てることなく左腕で殴りかかってくる。
 体格と髪の短さから男だとはわかる。けれどリーヴェに邪魔をされて苛立っているのか、冷静に対処しようとしているのか読めない。
 目から鼻までを覆う黒い仮面を付けているからだ。
 リーヴェは左の拳を避けながら相手の足に蹴りを入れ……と思ったが、ドレスの長い裾が足にひっかかり、あまり強く入らなかった。
 男の方は揺らぎもせず、リーヴェは体勢を立て直しながら左の拳を捕まえるのが精一杯だった。
「ま、またこれ」
 こうなると力比べになってしまう。
 ある程度相手の動きを抑えるために、掴む場所を選ぶことは成功している。とはいえ、抱き込むようにした右腕の先には剣の刃がある。
 しかも相手の頑張りによっては、リーヴェは腕ごと持ち上げられて足が踏ん張れなくなる恐れがあった。
 気づかないで。気づかれちゃ困る。
 そう願いながら、同時にトールと力比べした時のことを思い出す。
「押して駄目なら……っ」
 リーヴェは思いきって力を抜く。なるべく力比べが辛くなったかのように。
 仮面の男は好機とみたか、リーヴェを突き放した。
 剣を構え直してリーヴェを突き刺そうとしたが、それより早くリーヴェは動いていた。
 リーヴェが噴水の縁を蹴って飛び出す。
 男の剣は真正面へ振り下ろされて空を切る。
 横に逸れてから、今度はしっかりと腹に蹴りを入れたリーヴェによって、体をくの字に折り曲げて呻く。
「セルマさんこっち!」
 怯えて声も出ない様子のセルマを連れて走り出そうとしたリーヴェは、愕然とする。
「ごにん……」
 いつの間にか、噴水を取り囲むように同じような仮面の男が現れていた。
 5対1。
 この状況で切り抜けるには数が多い。
「いや、足す一」
 腹を蹴りつけた男が呻きながらも立ち上がろうとしている。
 リーヴェはどうにかセルマを逃がさなければと考えた。けれどいい案が浮かばない。
 そのうちに仮面の男達の輪が狭まっていく。
 通行人が居ればと思ったが、流星を見るため消灯された町の中は暗く、人がいるようには見えない。もしくは、乱闘騒ぎに巻き込まれると思って、逃げてしまったかもしれない。
「どうしよう……」
 歯がみするリーヴェが、一転突破を試みるべきかと思った時だ。
「ぐあっ」
 右手にいた仮面の男が、殴りつけられるような音とともに突然うめき声を上げて倒れる。
 リーヴェはとっさに左手へ走った。
 仲間が襲われたことで、注意がそれていた敵の一人が、スカートをちゅうちょなくたくし上げるリーヴェの姿にぎょっとする。
 そこへ、ベルトで下げていた肘までの長さの剣を抜き放ち、一気に畳みかけた。
 腕を切りつけられた男は、切り口を押さえながら逃げ出す。
 次の敵をと思ったが、敵は『もう一人』に負傷させられた仲間を庇いながら走り去っていった。
 彼の剣も敵を斬ったのだろう。
 取り出した布で血を拭い鞘に収めるのを待ってから、リーヴェは彼に近づいて声をかける。
「ありがとうセアン」
「間に合ったようでなによりだ」
 口調こそ淡々と応えたセアンだったが、めずらしく視線をさまよわせてから、ぽつりと尋ねてくる。
「ところでな」
「何?」
 まだ噴水横で座り込んだままのセルマに駆け寄ろうとしたリーヴェは、セアンの声に動きを止める。
「お前、なんで剣をそんなところに隠してるんだ」
 ……見てたのか。
 リーヴェは今更ながらに恥ずかしさで頬が火照ってくる。
 敵と対峙している時は、勝つことだけに集中していたので、恥ずかしいという感情自体をどこかに置き忘れていたので平気だったらしい。
 いやでも、暗くてはっきり見えなかっただろうし、とリーヴェは心の中で言い訳する。
 素足の上に一枚下着を重ねた上に剣を下げていたから大丈夫だ。
 そうして少し冷静さを取り戻してから、セアンに答えた。
「ちょうどいいと思って」
「……王宮で有事があったら、それをやるつもりだったのか」
「いやでも、アマリエ様に勧められて……」
「アマリエ?」
 セアンは眉をひそめる。が、本当にアマリエがそう言ったのだ。
 トールに女ならではの戦略を考えろ(という意味だとリーヴェは解釈した)と言われ、素直にアマリエに相談した。そして勧められたのがこれだった。
 女官が表だって帯剣するわけではないし、多少の恥ずかしさと引き替えに敵の不意をつくことができる。
 ついでに今までリーヴェが隠し持っていたのは、ナイフみたいな小ささの短剣だったが、これならばもっと刃渡りの長い物を隠しておける。
 なるほど合理的だとリーヴェは納得したものだったが。
「何かまずかった?」
 王宮でそんなことをしたら追放されるような所行だったとか。アマリエが単に冗談のつもりで、リーヴェが真に受けただけなのだろうか。
 セアンはもしかすると呆然としていたのかもしれない。
 ややしばらくしてからため息とともに言った。
「できればそれは最終手段にしておけ」
 なんでそんなことを言うのか。首をかしげるリーヴェに、セアンはぶすっとした声で告げる。
「女だろうお前。本気で嫁に行けなくなるぞ」
「だってもう嫁のもらい手ないし」
 うつむいたリーヴェの様子をどう捉えたのか、不意に彼はリーヴェの頭を撫でた。
「そう悲観することはない。お前の人として大きな欠点は、鈍い所ぐらいだ」
「鈍いって? やっぱりアマリエ様、冗談で言ったの? 教えてってば」
 セアンは答えてくれず、座り込んだままのセルマに歩み寄って立ち上がらせる。そのまま「送ろう。家はどこだ?」と尋ねる。
「ヴィスディー街です。あの、今の襲撃はなぜ……」
 セルマの尋ねに、セアンは淡々と告げる。
「貴方を襲ったものか、それとも王妃の女官であるリーヴェを標的にしたのかは定かではない。陛下から護衛などは?」
「訳あっておいてきてしまいましたけれど、陛下が手配してくださった方がいつもはいるんです。今日は家の方に待機してもらっています」
「では家へ行きましょう」
 そしてセアンは先に歩き出す。
 追いかける形で、セルマとリーヴェが並んだ。
「大丈夫でした?」
 とっさのこととはいえ、セルマをだいぶ乱暴に扱ってしまった。怪我はないか尋ねると、彼女は「平気」と笑う。
「リーヴェ様は本当にお強いのね。女性だとわかっていても、私よろめいてしまいそうでしたわ」
 今度こそは冗談だとわかっているのだが、リーヴェは思わず苦笑いになってしまう。
「それより、ねぇ?」
 とセルマがリーヴェの腕を引き、耳打ちしてくる。
「彼、いい人そうじゃない」
 何かと思えば、セルマはどうやら救いに現れたセアンも気に入ったようだ。そこでどうしてリーヴェに勧めるのだろう。
「そうですか?」
 不満そうな声で言えば、セルマになぜか笑われてしまった。

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