Celsus
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さて、周囲がこんなにも右往左往していたというのに、当のセアンは、
「それほど悩むような事態にはならんだろう」
と恐ろしく楽観視していた。
そんなばかなと思ったリーヴェだったが、嵐が収まった三日後に、リーヴェはセアンとともにエリシアの住む王宮北棟へと向かった。
王宮の北棟は、謁見の間など政務機関が集まる南よりも、どこか暗く、そして静かだ。
日当たりも少し悪いことが、影響しているのだろう。
普通ならば寂しげな雰囲気になりがちの場所だが、意外にもエリシアの女官達や使用人ばかりを見かける領域に入っていくと違った。
「なんか、妙に明るい感じ?」
まず女官。嵐の日に見た女官のように、皆が黄色い色調の明るいドレスを着ている。向日葵に囲まれたように錯覚する黄色い絹の色が通りすがる度に、これまた違和感をおぼえる。
エリシアの女官は、みんな老齢といっていい年代の者ばかりなのだ。
いくらなんでも、彼女達の年齢で明るい黄色のドレスは、少し無理をしている感がいなめない。落ち着いた雰囲気だからこそ、よけいに。
しかし、もしかすると今日はそういう趣向にすると、エリシアに命じられているのかもしれない。だとしたら、かなり微妙な好みの持ち主のようだ。
女官達は慣れているのか、セアンとリーヴェを案内する者も、通りすがる者も双方、平然としているように見える。
不思議さに首をかしげているうちに、二階東向きのエリシアの部屋へたどりついた。
扉を開いて最初に目に飛び込んだのは、やたらきらきらとした部屋だった。
なぜこんなにキラキラしいのかと思えば、窓にカーテンの代わりのように沢山の硝子ビーズの簾が下げられ、陽の光を反射していた。
部屋のシャンデリアも大広間のものかと思うほど、やたら大きい。
壁も白く、硝子がはめ込まれているのか、時折ちかちかと光る。
ずっとこんな場所にいたら、目が痛くなりそうだった。
しかし部屋の主はこれで満足しているようだ。嬉しそうな表情で、セアンを迎えた。
「よく来てくれました。あなたにまた会えるのを楽しみにしていたんですのよ!」
居室の中、一番明るい窓際に座っていたエリシア王女は、立ち上がって言った。
彼女もまた、光を集めるような白いドレスをまとっている。というか、ガウンまで白というのは、あまりにも白すぎて目に痛い。
エリシアはセアンに向かって歩み寄る。
セアンの方は、さすがに借り出し初日だからと思ったのか、大人しく膝をついて礼をとった。
「王妃様より命じられて参りました。セアンと申します」
「顔を上げて頂戴セアン。あなた本当に綺麗な方よね。もっとそのお顔を見せてくださらないかしら?」
にこやかに言われたセアンは、顔を上げる。その表情はみじんも動いてはいない。それでもエリシアは満足なようだ。
「あなたに会いたいあまりに、王妃様には無理なことを申し上げてしまったわ。でも了承していただけて本当によかった」
エリシア王女は輝くような笑顔を浮かべ、命じた。
「色々お話しさせて頂きたいのよ。お庭へ行きましょう? 外にお茶の用意もさせているのよ」
そう言ってセアンの手を握る。
セアンは抵抗せず、引かれるまま立ち上がった。そのままエリシアにつれられて歩き出す。女官達が開けた扉の向こうへ。
リーヴェは自分の目を疑う。
あのセアンが、大人しく手を引かれて歩いているのだ。
傍若無人で、嫌だと思ったら絶対に従わない、なにより人と接触しようとしないセアンが、だ。一瞬、振り払うのではないかと思ったが、されるがままになっている。
――もしかして、嫌ではないのだろうか。
そう思うと同時に、なぜか胃の辺りが重くなった気がした。
朝食が胃にもたれたのだろうか。そう考えているうちに、エリシアとセアン。そして付き従ったのだろう女官達数人の姿が、部屋から消えていた。
そこでようやく別な問題に思い至る。
自分はどうしたらいいのだろう。
呆然自失から立ち直ったリーヴェは、困惑しながらも部屋に残っていた女官に尋ねる。
「あの、今日からこちらに参りましたリーヴェでございます。わたくしは、どのような仕事をしたら宜しいでしょうか?」
そのままおろおろし続けるよりはいいだろうと、恥をしのんで尋ねる。
問われた黒髪の老女官は、穏やかな笑みを浮かべて答えてくれた。
「まぁ、申し訳ありませんわね。今あなたにしていただきたい仕事がある場所に案内しますわ。着いていらして下さいな」
優しそうな老女官にうなずき、リーヴェは素直に後を追って部屋を出た。
そのままどこか別な部屋で、エリシア王女の衣装替えの準備について説明されたり、付き従う晩餐などの予定について説明されたりするのだと思っていた。が、老女官は階段を下り、とうとう宮殿の外へと出てしまう。
何だろう。部屋に飾る花でも摘んでくるのだろうか。リーヴェはそう考えて見たものの、花が咲く庭園からはどんどんと離れていく。
やがて連れて行かれたのは、使われていないらしい、扉が木板で覆われている小さな離宮の前だった。
「こちらが、予め王女殿下から承っていた、貴女のお仕事ですよ」
手入れされていない花壇は、雑草だけが生い茂って花の姿も見えない。
ただ、駆け回れるほどの広さの前庭は、周囲の草が刈り込まれていた。
そこに立っていたのは、木剣を持っている少年だった。
「お前が新しい女官か」
金褐色の髪に、緑の目をした少年――ベルセリウスは口の端を上げ、地面に転がるもう一つの木剣を指し示した。
「お前の仕事はこれだ。剣を取り、僕の相手をしてもらおう」
「はぁっ!?」
余りに予想外な状況に、思わずリーヴェはすっとんきょうな声を上げていた。
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