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「わかりますわリーヴェ! ええもちろんですとも!」
セアンの話を聞いて、嫌そうな表情を浮かべたのはアマリエだけだった。
だからセアンのためを思ってくれるだろう。
そう思ってリーヴェがセアンをかわいそうではないかと話したら、アマリエは力強くリーヴェの手を握ってきた。
「あの頭の中身が魔界みたいな人でも、男ですもの。王女に誘われた時に、魔が差すことも……」
ちょっと考えてから自信がなさそうに付け加える。
「むしろ失礼な事をいいそう……いえ、そんなことよりっ。大切なのは、そんな風に誰かを心配する気持ちですわ!」
改めて熱く語り出す。
「はぁ……」
熱意に押されるようにうなずいたものの、リーヴェは少ししっくりこない気がした。
けれど、リーヴェが心配しているのは本当だ。
セアンが王宮で近衛騎士をしている理由といえば、彼の力を知られないように先手を打とうとしているからである。
相手がセアンと同じ「賢者の力」があれば、心を操ろうとした際に、かならずセアンのことに気付いてしまう。
それを避けるために、操るまでもないと思われるようにしむけているのだ。……半分くらいは素だけれど。
だから変人の噂も放置しているし、本人も周囲を気にしない奇矯な行動をとる。その行動の根拠についても、幽霊ネタがあるおかげで、今のところ疑われていないようである。
そうしながら「賢者の力」を持つ人間を捜し出し、気づかれないように力を封じてしまおうとしていた。
けれど王族が係わった時、どうなるのか。
王女に件の力があるとわかった場合、セアンは悟られないよう全力で封じにかかるだろう。
しかし王女に力が無かった場合は? しかもセアンのことを本当に気に入って、あの変人振りも受け入れてしまったら?
セアンは自分の目的を達成するために、王女と共にいることを選ぶ可能性もあるのだ。
賢者の血は、王族により多く流れている。
王女ともし婚姻を結べば、彼は他の王族とも近づきやすくなる。しかも、いかに弟が第一王位継承者とはいえ、エリシア本人には継承権などない。口先三寸でごまかして、事が成った暁には王女とともに隠棲することだって可能だ。
その可能性を思うと、リーヴェはもやもやとするのだ。
好きでもない人と一緒にならざるをえない状況になって……それで平気なの? と。
家族を大切に思っているのはわかる。けれど、そのために全てをなげうつのは……知っていて放置するのは、なんだか嫌なのだ。
だからセアンが一度は恋をしたに違いないアマリエから、それとなくこの件を回避できるよう、動いてもらえないかと思ったのだが。
「それにしても、アマリエ様もセアンのこと、ご心配でしょう?」
話を誘導しようとしたリーヴェは、なぜかアマリエに鼻をつままれた。
「ひゃっ、ハマリエはみゃっ!?」
突然の暴挙におよんだアマリエは、ふっと笑って言った。
「私も、そろそろ思い切りたいのよ」
「え?」
「だったら貴方がいいわ」
「……はい?」
今、アマリエは何と言った?
思い切りたいというのは、好きだったセアンのことに違いない。『だったら貴方が良い』ということは、まさかアマリエがセアンを思い切るために、セアンと誰かがくっついてくれたらいいと思っていて、その相手はリーヴェだったらいいということか?
アマリエは呆然とするリーヴェを置いて、楽しげにその場を去っていく。
「まぁ安心してちょうだいリーヴェ。王妃様の名誉のためにとかいろいろ理由をつけて、エリシア殿下のおそばに、あなたをねじ込んでみせるから」
後のことは、出来る限り自分でがんばってね?
そう言われたものの、リーヴェはなにも反応ができずに、アマリエを見送ることしかできなかった。
「セアンと……わたし?」
アマリエがいなくなっても、ややしばらくリーヴェはその場に立ち尽くしていた。
セアンと自分という組み合わせを想像したことがなかったといえば、ウソになる。
特にアグレル公爵を迎えに行った際、抱きしめられて眠った時には、頭がばくはつしそうになるほど驚いたし、いろいろな想像をしてしまった。
けれども、セアンは秘密を分かち合った友達だから、大事にしてくれるのだ。
それに病気だったから、恥ずかしがっている場合ではないし、早く治さないと命の危機に直結だと思ったからこそ、一瞬の妄想として忘れてしまえたのだけれど。
「いや、重要なのはそこじゃなくて! アマリエ様が……どうして」
どうしてリーヴェならばいいと思ったのか。
まさかセアンの側にいるのは、リーヴェだけだからか?
でも思い切るというなら、今回のエリシア王女の件など、アマリエにとっては渡りに船のはずなのだが……。
***
そしてアマリエは、早速行動したようだ。
王妃に呼ばれたリーヴェは、直々に言い渡された。
「エリシア王女にはあなたも一緒に付きそうことで同意を頂いたわ」
本当なんですか……とリーヴェは内心驚いた。
「私もその案は悪くないと思うのよ。なにしろ、セアンは心配な人でしょう? 私もリーヴァが付いてくれるならとほっとしているの」
微笑むレオノーラからは、昨日の不安げな様子は見受けられない。
正直、あの傍若無人セアンにリーヴェを付けただけで、安心できるかどうかわからないと思うのだが、一体アマリエはどう言ってエリシア達を説得したのだろう。そんな疑問が浮かぶが、レオノーラが先に答えを教えてくれる。
「アマリエがやはり外聞のことを気にして説得してくれたのよ。騎士だけを貸し出してなにかあれば、私の責任にもなるでしょう? やはりあちらが良いと言ってくれてもね?」
エリシア側の不利を補う策は、エリシアが「気にしない」と言ってしまえばおしまいだ。が、レオノーラ側のためにも、と言われてしまえば、エリシアもうなずかざるをえなくなったようだ。
さすがアマリエ様と感心し、そしてリーヴェはレオノーラに尋ねる。
「で、私はエリシア様の女官として働けば宜しいのでしょうか」
「そうね。ずっとセアンの様子をうかがうなんて、できないでしょう。けれど、エリシア王女の名誉にかかわりそうだと判断したなら、私の名を出して対処してくれてもいいわ。ただ……」
そこでめずらしくレオノーラが言いよどむ。
どうしたのだろうと思いながらも、リーヴェはじっと次の言葉を待った。
やがてレオノーラが続きを口にする。考えに考えた上で、それでもためらうように。
「もしそれがエリシア王女の心からの想いだと感じたら……。あとは貴方の判断に任せるわ、リーヴェ」
吐息混じりの最後の言葉は、様々な感情が入り交じっていると感じられる物だった。
「本当に好きな相手と結ばれないことは、辛いと、私も思うから」
レオノーラ自身のこと、そしてレオノーラを取り巻く状況の発端、それら全てについて、今までレオノーラが苦悩してきたことが現われている言葉だ、とリーヴェには思えた。
感情を優先するのならば、レオノーラ自身の今の立場を否定することになる。けれど、レオノーラ自身だってこのような状況よりは、自分も好きな物を選びたかったという気持ちがあるだろう。
レオノーラ自信は、今の立場を捨てるのは難しい。
国同士の契約である以上簡単には破棄できず、このままではいずれ、レオノーラは誰か自分の故郷を他者に委ねることしかできないのだ。
そんなままならない状況だからこそ、他の誰かにはこんな苦悩を負わせたくないと想ったのかも知れない。
だからリーヴェは、黙って深く一礼したのだった。
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