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うそでしょ!?
そう問おうとしたが、既にリーヴェを案内してきた老女官はいなくなっていた。素早すぎる。
改めて向き直れば、ベルセリウスが「早く拾え」と再度命じてくる。
リーヴェは何がなんだかわからない。
確かに護衛というか隠密みたいなことをしているリーヴェだが、王子の剣の指南まで自分の業務に入っているはずがない。
どうしようとこまったリーヴェだったが、ベルセリウスの次の言葉にはっとする。
「どうした? 怖くてできないというなら、ここを辞して主に泣きつきに行けばいい。子どもの遊びだと言えば、どうせ王妃も僕をそう叱責はできまい」
ようするに、リーヴェが邪魔なのだとわかった。
子どものわがままにみたてて剣を振り回すようなことをさせれば、泣いて逃げると考えたのだろう。
(どうしてそこまで?)
別に女官一人ぐらい、セアンとは別の仕事を言いつけておけばいいだけだ。
徹底的に遠ざけようとするその意図は何なのか。
考えたリーヴェは、転がっていた木剣を手に取った。
リーヴェの行動が意外だったのか、目をまたたくベルセリウスに、リーヴェは微笑みながら申し出る。
「わかりましたお相手いたします。ただ、か弱い乙女に無理をお申し出になられたのですから、万が一にも私が勝てたら「男らしく」お願いをきいてくださいます?」
「……い、いいだろう」
まさか本当に打ち合いをすることになると思わなかったのだろう。
ベルセリウスは戸惑いながら応じた。
「では構えろ」
「承知いたしました」
ベルセリウスが真正面に剣を向けてくるのに対し。リーヴェは上段に振りかぶる形で構えてみせた。
ベルセリウスの表情が揺らぐ。
剣の扱いを知らずにやっていることなのか、それとも習熟しているからこその構えなのかと、迷ったのだろう。
やがてリーヴェが無知であると結論を下すことにしたらしい。
「たあっ!」
踏み込み、振り下ろしてきたベルセリウスの剣を、
「ていっ」
リーヴェは思い切り自分の木剣を叩き付けた。
柄の近くを強打され、ベルセリウスはあっけなく剣を手から取り落とす。
からんと、地面に転がる石に当たった木剣が軽い音を響かせた。
ベルセリウスは、ややしばらく呆然と地面に転がった剣を見つめていた。
よもやこんな展開になるとは思わなかったらしい。
しかし頭の中で、何らかの言い訳を思いついたのだろう。顔を上げてベルセリウスが叫んだ。
「は、反則だ!」
「いいえ?」
リーヴェはきょとんとした表情をつくって、ベルセリウスに答えた。
「競り合うにしろ、打ち合うにしろ、剣を落とせば『負け』ですわよね?」
リーヴェはそのまま畳みかける。
「殿下が打ちかかってきてから、私は応じさせて頂いたのですけれど……。それともまさか、女に手加減してほしいと仰るので?」
「ぐ……」
まさにぐうの音も出ない、というのは今のベルセリウスの状態を言うのだろう。
やがてヴェルセリウスは、唸るように言った。
「もう一度だ!」
「お相手させて頂きます」
リーヴェは笑顔で、今度は剣先を下に向けて構えてみせた。
結果、ムキになったベルセリウスのおかげで、リーヴェは五個お願いを聞いてもらう権利を得た。
「なっ……なんで……」
地面に手をつき、思い切り落ち込むベルセリウス。
その姿を見下ろしながら、リーヴェはちょっと「やりすぎたかな……」と思い始めていた。
ベルセリウスの相手をと言われたのは、リーヴェが邪魔で、追い返そうとしてのことだったと解っている。そしてベルセリウス自身も、女官になど負けないと考えていたのだろう。
万が一勝ち気な女官が、子どもの相手をするつもりで木剣を握ったとしても、軽く叩いてやるか、突き飛ばして終わりだと思ったに違いない。
しかし、どの手もリーヴェには効かなかった。
というかどんな手も使わせなかった。
ベルセリウスはムキになって突っかかってきてくれたので、上手くいけば『勝ったら願い事を一つ聞く』の数を増やせるだけ増やせただろう。
しかし引きどころが肝心だ。
やりすぎて、ベルセリウスに嫌われてしまってもこまる。
だから五回までと思って、勝つ可能性が不可能だと思わせようとしたのだが……ちょっとやりすぎたかもしれない。
顔を上げたベルセリウスが、酷く悔しそうな顔でリーヴェを見上げてくるのだ。
どうフォローしようかと考えあぐねて、とりあえずリーヴェは自分もしゃがんで、目線を会わせることにする。
立ったままでは「未熟者め!」と見下してると思われかねないからだ。
で、とりあえず媚びることにした。
「さぁ殿下。私のお願い聞いて下さいませんか? 殿下にしかお頼み出来ないことなんです」
ベルセリウスにしかできないのだと持ち上げると、彼はいぶかしげな表情になる。
「……言ってみろ」
促されてリーヴェは用意していた願い事を告げた。
「まずは私を追い出さず、殿下の側にいさせていただきたいのです」
ベルセリウスは訳がわからないと、つぶやく。
「姉上の側にいさせてほしいと、言うのだとばかり思ったが……」
「私をなるべく遠ざけたいと思し召しなら、無理にお側に侍って、嫌われてしまってもこまりますので」
エリシアの元にこのまま戻ったとして、また何か別な策を使って、リーヴェは引き離されてしまうだろうと予想できたのだ。それなら、弟王子の側にいた方が、そこそこ都合が良い。
それにエリシアには勝敗の賭けは関係ないが、ベルセリウスはこのお願いを反故にはできないのだ。王妃様のお願いをかなえるためにも、返品されない良い位置だと言えよう。
「まぁ、いい。僕が負けたのだからな」
潔いベルセリウスは、うなずいてくれる。
そこでリーヴェは調子に乗って、二つめのお願いをした。
「ついでに今すぐ二つめをかなえて欲しいんです。殿下はエリシア様の様子を見に行きたくなりませんか? ぜひ連れて行ってほしいんです」
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